誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ

02

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 ジョークにしては全然笑えねぇ。
 三初のギャグセンスは、遥か彼方へぶっ飛んでいるらしい。

「なんでそうなんだよ。俺の別にから読み取りすぎだし曲解過ぎるだろテメェ」
「経験則かな。俺のなにかしらに反応、からの構ってちゃん、ならイチャこきたい。で、旅行くらい行くべきかと思うけど、めんどくさいからナシ。というわけであの返答」
「わかるかッ! 言葉足らずの極みだわッ!」

 ガウッ! と吠えるがなんのその。
 足を一瞬浮かせ頭へダメージを与えてやるが、素知らぬ顔である。

 まったく。なんでその思考回路を話さず結論だけを口にするのか、理解不能だ。

 俺は自他ともに認める空気読みレベルの低さだってのに、相変わらずコイツは言葉をケチりやがるぜ。

 フン、と鼻を鳴らして話を終えると、三初はまたゴロリと寝返りを打ってテレビに体を向けた。

 それはいいけど、俺の手を離さないのはいただけない。私物扱いかコノヤロー。

 三初とシェアしているテーブルの上のパッキーを一本取り、やけ食い気味に齧った。

 甘いものは最強だ。
 シェアハピってやつだな。

 ……しかしふと、思うところがあるのも確かだった。

(旅行か……デートはしたことあるけど、旅行はねぇな……。んん、土産の場所被ってたらめんどくせぇし、んんん……)

 クシャ、としかめっ面になる。
 怖いと言われるこの顔は、ただ悩んでいるだけだったりするのだ。

 社内ではやし立てられるのが嫌で交際を秘密にしている俺達なので、職場への土産の場所が被るとマズイ。

 有給が被るのも同じくマズイだろ?
 となると混み具合も考えて、シーズンオフの土日で一泊二日か。

 ゴールデンウィークが終わった後は連休明けの仕事があるし、六月頭か、後半がいいだろう。

(温泉がいいんだよな……露天風呂。だから旅館がいい。うまいもん食いてぇしな)

 トントン、と三初の頭をつつく。

「ん?」
「温泉好きか」
「嫌いではないですよ」
「うし」

 答えを貰って頷くと、三初はまた画面を見つめて映画を楽しむ。
 俺は俺で、また思考の海へ泳ぎ出す。

(温泉まんじゅう……温泉まんじゅうが食いてぇ。温泉卵も食いてぇな。あー、今日温泉卵晩メシに食おう。つか、三初は泊まんのか? 帰んのか? 泊まるなら和食食いに誘うか)

「温泉卵……」
「夜ね」
「おう」

 悩み悩んでつい口から呟きが漏れた。
 すると返事が返ってきたので、頷く。

 泊まるかはわからないが、夜まではいるらしいことが判明だ。よし。一人メシじゃねぇ。

 心持ち期待値の上がった俺は、その後は特に三初と言い合うこともなく、映画を見終えた。

 買い集めた懐かしの駄菓子シリーズを、あーだこーだと感想を言いつつ食べたりもした。昼飯の代わりだ。

 俺はモンゴルヨーグルが好き。
 三初はチンタラしてんじゃねぇやいをよく食べたらしい。

 その後腹肉をつまもうとする三初から逃げ、俺は不貞腐れながら筋トレをする。

 あぁ、そうそう。
 ついでに押し倒された時の逃げ方を教え込まれたな。

 三初はスポーツマンではないので、護身術を使う時は速攻急所を狙うらしい。

 俺がいつもサクッと体勢を崩されるのはそのせいか。チクショウめ。



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