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第七.五話 暴君カレシの尽力
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しおりを挟む「……なんだよ」
『真のお母さんがタケノコくれたんですよ。今日しこたま天ぷら揚げるんで、夜集合ね』
「おー……いいけど、揚げ物だけじゃあんま量食えねぇぞ」
『オッサンだなぁ』
「まだ二十代だわコラ」
『じゃあ七味醤油で焼いて大根おろしでサッパリ。あと春系の野菜と豚肉炒めて甘めの味付けにしますか。残りは下処理して適宜常備菜にしよ』
「……たけのこごはんは」
『うわ、先輩の口からたけのこごはんって出るとなんかウケる』
「うるせぇ、ほっとけ。もっと似合わねぇこと言ってやろうか? あ?」
『いいね、言ってみてくださいよ。例えば?』
「…………あったかごはん?」
『ウケるわ』
「いやさっきから一言も笑ってねぇだろテメェ」
テーブルの下の足置きっぽい段差に座って、いつもと変わらない会話をダラダラと繰り広げる。
三初は相変わらずマイペースだ。
俺が衝撃の事実に照れて頬を赤くしていることなんて、知らないだろう。
『若竹煮ね。来しなにわかめと菜の花買ってきてください。あ、ついでにミックスナッツとクリームチーズ。固め薄めのクラッカー。ダッシュ』
「パシリか俺は」
ここぞとばかりに雑用を頼まれるが、俺はいつも結局買って帰る。
気が向けば一緒に晩飯を食い、週末は気まぐれに泊まったり帰ったり、暇が合えば出かける普通の付き合いだが、それが落ち着くようになった。
そりゃあまあ、俺たちはよく喧嘩もするし、言い合いはしょっちゅうだ。
ドラマチックなことなんてなにもない。おかげでふとした時、いつか飽きるんじゃないかと心配になる。
俺の日常に三初との付き合いがノーマルとして組み込まれて、俺は結構、満足。相手がどうかはわからない。
でも三初は涼しい顔で俺と一緒にいて、ああして俺が面倒を起こしても、他人の横槍が入っても、付き合いを続行することは前提で迷わず努力する。
居場所を聞いて迎えに来て、ぶつけて、受け止めて、間森マネージャーがもう手出しできないようにもした。
(……うん)
なんだ、その、な。
思うとやっぱ、だらしのねぇ顔になっちまう。春って結構、暑い。……クソ。
だからたまには、俺もデレるという努力が必要なのかもしれないと、魔が差した。
「なぁ」
『なんですか』
しばらく会話を続けて、頃合いを見て声をかけた。
落ち着かなくて意味なく耳の後ろを触り、気を紛らわす。
「お前、俺んとこ来る前、間森マネージャーにキレて殴りかかったんだろ。凄い剣幕だったって聞いたぜ」
『……まぁ、んー……あー……や、そんなに? 気がついたら仕留めてただけで』
「社会的にもか。……じゃなくて、俺、今から全然似合わねぇこと、言ってやっから、ちょっと聞け」
『どーぞ?』
掘り下げるでもなく楽しげに肯定されて羞恥が込み上げ、今すぐなかったことにしたくなったが、それじゃあダメだと思い直す。
うし、俺だってたまには素面でそれらしく、言ってやる。
男が本気でやりゃあなんでもできる、はず。スーハースーハー。深呼吸だ。
「まぁ、俺はこんな空回りばっかのダメな先輩で、彼氏だけどよ」
『お?』
「これからも、付き合ってくれよ。……要」
『…………』
擽っていたスマホを押し当てていないほうの耳を、ついに塞いで、照れという名の瘙痒感にモゾリと身悶える。
今度の三初の尽力に報いるため、俺は素直な気持ちを、ベッドでもなく酒の力も借りずに言い切ったのだ。
名前呼びは誠意の表れ。
ずっと気になってたしな。こだわりはないけどいい機会だと思う。
しかし通話の向こうからは、どうしたことか沈黙しか返ってこない。
「? おい……要?」
『…………はい。要です』
「そりゃわかってんだわ。そうじゃなくて、もっとこう、俺の決意表明についてなんかねぇのか。なんか」
『なんか、……あぁ、……はい。承知しました。今後とも末永くよろしくお願い申し上げます』
「いや業務連絡かよ」
『うん。名前呼びに関しましては本日個人的に判断できかねますので、一度持ち帰り、後ほど改めてご連絡いたしますね。本日はお時間をいただき誠にありがとうございました』
「取引先かよッ。しかもそれ否決する時の断り方だろうがッ」
やっと返ってきたと思えば突然のビジネス対応に、俺はパシンッ! と膝を叩いて訴えた。
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