誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力

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 ブツブツと考えながら歩いた俺は、ベッドに腰掛ける三初の前に到着し、ガオウッ! と気迫で押し迫った。

「よし、三初ェッ」

 一応、頭痛に響くと困るので勢いだけで声はやや大きい程度である。

「なんですか。牙むき出しのシェパードみたいな顔して」

 膝に腕を置いてだらりと座る三初は、めんどくさそうに顔を上げて、仁王立ちの俺を見つめた。

 その顔を潰さないようにギュッと抱きしめ、頭をなでる。
 それはもう、ワサワサとなでる。

「なにしてんの?」
「オラ。どこにでも傷つけていいから、お前、俺をイジメろよ」
「なに言ってんの?」

 遠慮すんな、と言うと、三初は俺の背中を指でなぞり上げた。

 俺はゾゾゾ……っ、と背筋がうねり、飛び上がって三初を解放する。
 なにしやがんだコノヤロウ。

「これでどうやって飽きればいいんだかね……」
「く、クソ、俺が素面で正面から抱きつくのは、結構な心構えがいったって言うのにチクショウ……ッ」
「やー既にイタイ人を更に虐めるの、可哀想すぎますよ。頭も。流石の俺もこれ以上は傷つけれないわー」
「誰がメンタルいたぶれっつったんだコラ」

 ベショ、と床に手を付き悔しさに震える俺には、粗雑な返答だけが投げられた。

 ちくしょう。いつまでたっても俺の思い通りにならない男だ。

 ──そんな俺の頭に、不意になにかがパチ、パチ、と着けられた。

「ん?」

 続いて首にキュッとひも状の物を通され、冷たいと思っているうちに装着される。

 手で触れてみると、それは首輪だと気づく。
 黒いそれは、いつか三初に監禁ごっこをされた時につけられたものより簡素な作りだが、しっかりと首輪である。

 頭に手を伸ばすと、柔らかな手触りのなにかの耳が立っていて、クリップで留められていた。

 俺はウゲ、とくしゃくしゃな顔で三初を見つめるが、三初はニマ、と笑うだけだ。

「先輩、朝ごはん奢ってくれるんですよね」
「おう。でもこりゃ、なんのマネだよ」
「シェパード系の犬のつけ耳と、首輪。マスターに貸してって言ったらオッケーくれたんで、それつけたまま飯行きましょ」

 どうしてそうなったのか、意味がわからない。わかりたくもない。

 引きつった口角で首を横に振るが、三初は手を差し出して、一言。

「お手」
「…………」

 眉間のシワが深まり、顔色は青ざめ、青筋は浮かぶ。

 けれど昨日の今日で逆らえない俺は、渋々手を上げて、一瞬だけ手を置いて素早く引っ込める。

 が、その目論見はバレバレだったようで、脅威の反射神経でもって捕獲されてしまった。

 グッと手を引かれて立ち上がらせられ、自分より少し低い三初の後頭部を、焦燥に塗れた視線で突き刺す。

「待てコラッ。三初、これ取るよな? 店出る前に取るんだろ?」
「取ると思います?」
「……ちょっと殴っていいから、やめようって気は」
「さーカバン持って、スマホ、財布、鍵、カメラのデータ。忘れ物なしね。駅前の喫茶店のモーニングがいいかな」
「そ、そんな人通りあるとこ行くのかよッ」
「日曜日ですからねぇ」
「俺今年でめでたく三十路……っま、マジで行くのか……!?」

 ガチャ、とドアを開いた三初が、振り返って俺を引き寄せ、耳にキスをした。

 驚いてビクッと肩がはねる。
 確かそっちの耳は、間森マネージャーにキスされたほうだ。

「傷つけなくても、好き勝手アホマゾ先輩をイジメられるんですよ。俺はね」
「っん、……っな、殴られたほうが何倍もマシだろッ! クソサド野郎がァ……ッ」

 ──こうして。

 聞く耳持たない三初に連れ回され、俺は結局この格好のまま花見に行くことになり、一日中連れ回されたことを、お知らせしておく。

 夜をどう過ごしたかについては、墓場まで持っていく所存だ。

 いいか? 人は犬の鳴き真似だけで意思疎通はできねぇんだよ……ッ!


 第七話 了




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