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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力
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しおりを挟むそう言ってキーボードを切りよく打ち終わったあとに中指を立てると、三初はため息をひとつ吐いて、キィ、とデスクチェアを回転させる。
『あのね、先輩。どこでSについてお勉強したのか知りませんけど……──虐める前に〝今からお前を調教してやる〟なんて言うSが許されるのは、中学生までです』
しみじみと『ノーマルの俺にもわかることですけど、なんでわかんないのかねぇ……』なんて呟きつつ当然の顔で呆れられた俺は、もちろん物凄い形相で三初を睨みつけた。
つかお前中学生の時からドSだったのかよ。やっぱ筋金入りじゃねぇかクソッタレ。己を省みろ。深々と。
『標準装備ね? 真性マゾからするとセーフワードなんてあるだけで萎える。命綱なんか野暮なだけ。ならファッションSも尽くし系Sも寒いもんでしょ。だから、嫌々うるさい相手の本気で無理のボーダーラインを見極める目。相手をドブに沈みこませるために、甘やかしている体で躾ける。気づかせない。わかる? これ標準装備』
『標準装備がすでに最強装備じゃねぇかこのクソドS』
『や、RPGだと初期装備ですし。まー……初期装備のない口だけ、痛めつけるだけのSなんて、自尊心の高いただのエゴイストですよ。SMはね、君主制』
その君主制で絶対暴君な三初は、大事なのは目、という。
世の中のなにごとも観察眼は役に立つし、あって無駄にはならない。
気づきは強武器、と言いながら、目から光が消えた俺のポケットにチョロルチョコを突っ込んだ。おい観察眼ちゃんとしろ。気づけてねぇぞ、俺の侮蔑に。
『三初ェー……』
『さぁて、過激なプレイでもしたくなったのかねぇ……先輩がない脳ミソでなにやらお悩み中のどうしようもない腐れドマゾってことは知ってますが、そーゆーサドモドキにまでホイホイついていっちゃダメですよ? 糖分あげるから、黙ってお食べ。そして肥え太って豚におなり』
『う、っるせぇ、行かねぇわッ。養豚すんなコノヤロウッ』
──というわけで、過去回想終了。
ちょっと話を振っただけなのに悩んでいることには気付かれていて、理由はわからないくせにチョロルを与える狡い男に、まんまと甘やかされてしまった。
……いや、そういう話じゃねぇぞ?
別に俺が甘やかされて若干絆されたとかいう、アホな話じゃねぇからな?
ゴホン。話を戻す。
とにかく自分が、ただのサドでしかない三初的につまらないらしいマゾではないという確信を得るべく。
あとついでに男同士の世界とやらをより深めに知るべく。
俺は現在ツテを伝って本場──もといゲイバーを訪れていた。
もちろん、三初には黙って。
まぁ落ち着け。俺も死にたいわけじゃない。危険な綱渡りは百も承知。
他の男に乗り換える気はさらさらなく、モテない俺に万が一物好きな野郎から誘いがあろうとも全力でシャットアウトする心づもりだ。ねぇと思うけどよ。
とにかくお前に知られたくない話をするために会いたい相手がいて、そいつの都合がいいことと人目を気にせず話せること、リアルな現場も見たいって理由からこうしただけで、やましい心は一切ねぇ。だから許せコノヤロウ。
とかなんとか正直に俺が熱く語ったところで、三初が快くゴーサインを出すわけねぇだろ? 尋問されら。
よって密かに独断専行を決めたものの、たぶん三初は俺が隠し事をすること自体、面白くはない。
──バレたら、……詳細は省くが、とりあえず俺は死ぬ。マジで死ぬ。
わかっていながら俺は遅めの時間にコソコソ出発し、逃亡犯並に周囲を警戒しつつどうにか現場にたどり着いたのだ。
腹はとっくに括っている。
鬼畜暴君の影に怯えてしり込みするほど、俺の覚悟は甘くねぇ……!
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