誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
304 / 454
第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力

23

しおりを挟む


 そう言ってキーボードを切りよく打ち終わったあとに中指を立てると、三初はため息をひとつ吐いて、キィ、とデスクチェアを回転させる。


『あのね、先輩。どこでSについてお勉強したのか知りませんけど……──虐める前に〝今からお前を調教してやる〟なんて言うSが許されるのは、中学生までです』


 しみじみと『ノーマルの俺にもわかることですけど、なんでわかんないのかねぇ……』なんて呟きつつ当然の顔で呆れられた俺は、もちろん物凄い形相で三初を睨みつけた。

 つかお前中学生の時からドSだったのかよ。やっぱ筋金入りじゃねぇかクソッタレ。己を省みろ。深々と。


『標準装備ね? 真性マゾからするとセーフワードなんてあるだけで萎える。命綱なんか野暮なだけ。ならファッションSも尽くし系Sも寒いもんでしょ。だから、嫌々うるさい相手の本気で無理のボーダーラインを見極める目。相手をドブに沈みこませるために、甘やかしている体で躾ける。気づかせない。わかる? これ標準装備』

『標準装備がすでに最強装備じゃねぇかこのクソドS』

『や、RPGだと初期装備ですし。まー……初期装備のない口だけ、痛めつけるだけのSなんて、自尊心の高いただのエゴイストですよ。SMはね、君主制』


 その君主制で絶対暴君な三初は、大事なのは目、という。
 世の中のなにごとも観察眼は役に立つし、あって無駄にはならない。

 気づきは強武器、と言いながら、目から光が消えた俺のポケットにチョロルチョコを突っ込んだ。おい観察眼ちゃんとしろ。気づけてねぇぞ、俺の侮蔑に。


『三初ェー……』

『さぁて、過激なプレイでもしたくなったのかねぇ……先輩がない脳ミソでなにやらお悩み中のどうしようもない腐れドマゾってことは知ってますが、そーゆーサドモドキにまでホイホイついていっちゃダメですよ? 糖分あげるから、黙ってお食べ。そして肥え太って豚におなり』

『う、っるせぇ、行かねぇわッ。養豚すんなコノヤロウッ』


 ──というわけで、過去回想終了。

 ちょっと話を振っただけなのに悩んでいることには気付かれていて、理由はわからないくせにチョロルを与える狡い男に、まんまと甘やかされてしまった。

 ……いや、そういう話じゃねぇぞ?
 別に俺が甘やかされて若干絆されたとかいう、アホな話じゃねぇからな?

 ゴホン。話を戻す。

 とにかく自分が、ただのサドでしかない三初的につまらないらしいマゾではないという確信を得るべく。
 あとついでに男同士の世界とやらをより深めに知るべく。

 俺は現在ツテを伝って本場・・──もといゲイバーを訪れていた。

 もちろん、三初には黙って。

 まぁ落ち着け。俺も死にたいわけじゃない。危険な綱渡りは百も承知。
 他の男に乗り換える気はさらさらなく、モテない俺に万が一物好きな野郎から誘いがあろうとも全力でシャットアウトする心づもりだ。ねぇと思うけどよ。

 とにかくお前に知られたくない話をするために会いたい相手がいて、そいつの都合がいいことと人目を気にせず話せること、リアルな現場も見たいって理由からこうしただけで、やましい心は一切ねぇ。だから許せコノヤロウ。

 とかなんとか正直に俺が熱く語ったところで、三初が快くゴーサインを出すわけねぇだろ? 尋問されら。

 よって密かに独断専行を決めたものの、たぶん三初は俺が隠し事をすること自体、面白くはない。

 ──バレたら、……詳細は省くが、とりあえず俺は死ぬ。マジで死ぬ。

 わかっていながら俺は遅めの時間にコソコソ出発し、逃亡犯並に周囲を警戒しつつどうにか現場にたどり着いたのだ。

 腹はとっくに括っている。
 鬼畜暴君の影に怯えてしり込みするほど、俺の覚悟は甘くねぇ……!




しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...