誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
288 / 454
第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力

07

しおりを挟む


 ──そんな会話をした翌週の金曜日の夜。

  俺は男同士の知識をつけることで自分からも歩み寄るやら、間森マネージャーが侮りがたいとんでも経験値野郎の可能性やらを、すっかり忘れていた。

 相変わらずマネージャーは三初にちょっかいを出しては俺に睨まれて、俺にちょっかいを出しては三初に中指を立てて足の小指を踏まれ、たいてい二日に一回は生き生きと宣伝企画課のオフィスに顔を出して仕事もしつつ遊んでもいた。

 しかし三初も俺も特に靡くことはない。

 だからこそ俺は、油断していたのかもしれない。

 今日も今日とて気まぐれ暴君に首根っこを掴まれ三初の家へと仕事終わりに直行させられ、夕飯を共にし、ついでに風呂とベッドも共にしたあとのこと。


「ちょっとワンパターンだなぁ……」

「あ?」


 俺の隣でベッドヘッドに背を預けてスマホのチェックをしていた三初が、不穏なつぶやきをしれっと俺にツイートしたのだ。

 うとうとしつつも三初宅の猫、マルイを構っていた俺はキョトンと目を丸くした。

 次いで首を傾げ、うつぶせになった俺の前で枕に乗っていたマルイから手を離す。

 ナーウと鳴いたマルイはしったんと尾を揺らし、三初の膝の上に移動して丸くなった。
 三初はそれを軽く一度なで、手を離してスマホを充電器に差す。


「いやね。先輩が呆れるくらいドマゾいから、ちょっと叩いたり焦らしたりするくらいのことには、慣れてきちゃってんなーと思いまして」

「それ以前に俺はマゾじゃねぇって話はどうなってんだ」

「戯言? あぁ、無駄吠え」


 俺は無言のまま、すぐ隣にあった三初の腕にガリッと噛みついた。

 唇を離すと湿った素肌に噛み跡がつき、俺は上目遣いで睨みつける。
 もちろん口元はへの字だ。わかりやすく不満を顕にする優しい恋人サマである。


「なんかねぇ……基本は俺が不慣れなあんたを愉快に調教して、変化と言えば懲りない先輩のオイタをお仕置するくらいだからなぁ……結構慣れてきたよね、ぶっちゃけ。飽きがくる頃かな、と思うんですよ。日々のセックスに」


 三初は特に動じず、しっかり歯型のついた自分の腕を見て、それをぺろりと舐めた。

 マルイを膝の上から避けて、ベッドの中に潜り込む。
 同じようにうつ伏せで肩を並べられたかと思うと、首に片腕を伸ばして体を抱き寄せられた。

 距離を詰められ僅かに赤らんだ俺の耳に唇を寄せて、性悪な猫は熱い耳たぶにキスをする。


「痛くて気持ちいいならなんでもイイって節操のないマゾヒストをいじめても、つまんないじゃないですか」

「いッ!?」


 そしてそのまま思いっきりガリッ! と噛みつかれ、血が滲むほどくっきりとした歯型を耳たぶに付けられてしまった。


「~~~ッてェ、な、なにすン、だ、コラッ!」


 驚いた俺は痛みにビクンッと肩を震わせ、反射的に身を離して吠える。

 普通報復とはいえガチ噛みするか?
 先に罵倒したのはテメェだろうが!

 噛まれた耳に触れるとやはり予想通り凹凸がついていて、少し湿った耳たぶが熟れた果実のように熱く腫れていた。

 あんまりだ。
 仕返しにしては酷すぎる。


「すぐ治るような傷しかつけらんねぇ縛りなくなりゃ、もうちょいいろいろできるんですけどね。あんた嫌がるでしょ?」

「あぁッ? 当たり前だろうが。ただでさえバトルアクションジャンルなのにスプラッタホラージャンルになったら会社で噂になるわ」

「それ俺はどうでもいいです。けど、つまんなくなんのが一番やだからなぁ……」


 のんびりと呟かれ、俺は怒り由来でギュッと眉間にシワを寄せた。

 なにがどうしてそうなったのかわからないが、とにかく痛みは痛みであって、気持ちいいとは繋がっていない。

 マゾはつまらないと言われても、知ったこっちゃないに決まっている。

 ……というかつまらないってなんだオイ。反応か? 受身なのがか?

 なんの気なしに言われたことだが、俺の脳裏を結構な割合で占めるもの。

 別に好きで感じているわけじゃないから、すぐにグズグズになるのがチョロイからつまんねぇってんならどうしようもねぇぞ。

 つか敏感なのがつまんねぇならそれもこれも元を辿ればテメェのせいじゃねぇか。
 極悪サディストめ。股間爆破しろ。

 イライラと文句は尽きないが、まぁなにが一番言いたいかって言うと──そもそも俺はマゾじゃねぇわッ! ってことである。

 だが俺が唸ろうが睨もうがキレようがどこ吹く風のコイツは、離れた体を再度抱き寄せ、クククと喉を鳴らして笑った。


「ぉあ、っ」

「手始めに擬似レイプでもします? それかもう一回オフィスでしてもいいな。ケツにローター挿れてデートとかもアリ。まー……なにか面白いコト考えておきますから、ね」

「今後一切余計な気遣いは考えなくていいから、テメェはただ寝てろ。永遠に寝てろ。世間様と俺のために封印されてろッ!」


 つまらないならおもしろおかしくしようと考えた三初はニンマリと笑み、なにやら恐ろしい計画を立てる。

 耳の穴触んな。頭押さえつけて抱き抱えんな。息できねぇだろ。俺の視界がお前の鎖骨一色なんだよドチクショウがッ!

 ガルル、と唸るのは、知ったこっちゃねぇという気分だ。
 最凶の鬼畜サドにはいちいちマトモに付き合ってられない。

 ──そいや、冬賀が言ってたゲイバーは、どこだっけか……?

 けれど布団の中で鬼畜野郎の足をゲシッ、と蹴りながら、なぜかトチ狂ったことを考えていた俺なのであった。 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

穴奴隷調教ショー

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 穴奴隷調教済の捜査官が怪しい店で見世物になって陵辱される話です。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...