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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟む「クソ、ってかテメェ、普通開幕人様をぶん殴って蹴るか……!?」
体のわかりやすい痛みを感じる場所を捻りつぶされたあと、どうにかこうにか解放され、腹筋を使って起き上がる。
俺が間森先輩のケツに蹴りを入れなかった理由として、人様を蹴り飛ばすのはどうかと思った、という思考があった。
にも関わらず、この暴君。
仲のいい先輩らしいのに、傍若無人にもほどがある。容赦もなかった。
ちなみにいったいなにで殴ったのかと思うと、ごちゃごちゃとなにかしらが入ったエコバッグだった。
いや確実にイテェだろそれ。
栄養ドリンクとか入ってるじゃねぇか。
「や、間森先輩は人間じゃないんで人様にカウントしませんよ。俺が暴君なら、あの人もそうですし」
「はっ?」
最早鈍器な袋で殴打したというのに、三初は素知らぬ顔でんべ、と舌を出した。悪びれてもいない。
あぁん? テメェくらいの極悪サディストがそうそういてたまるかってんだ。
どう見ても人間である間森先輩を人外扱いとは、流石に納得がいかない。
あんな優男が人の頭を鈍器でフルスイングしたあと蹴りを入れるド鬼畜野郎と一緒なわけあるか。
腑に落ちない俺は訝しく眉間にシワを寄せ、三初を睨む。
溜め息を吐かれた。なんだよコノヤロウ。
「やだなぁもう。いきなり殴るなんて、要くんはいつも失礼ですよね」
そんな俺たちに穏やかな笑顔で声をかけたのは、ベッドの端に避難していた間森先輩だ。
あっけらかんと笑い、小首を傾げて三初を見ている。
その様子はやっぱり暴君には見えなくて、俺としては名前呼びがいちいちいけ好かなくもあるが、ただの美人な男に見えた。
「ははは」
しかし対する三初が、まさかのとびきり上等な美麗スマイル。
それはもう俺に対して見せたことなんて一度たりともない、キラッキラのイケメンスマイルだ。
いつの日かショッピングモールで見た、伝説の綺麗な三初である。
「あんたこそ、相変わらずメンタルの強い男を組み伏せるの好きですよね。ヤリチンアバズレゲス野郎先輩?」
そしてこちらが綺麗な三初から発せられた、ド汚い言葉である。
「言いますねぇ。ド腐れサディストのひねくれクソ野郎くん?」
その返答である。
もちろん俺は真顔である。
「あはは」
「うふふ」
片や紺のセーターにダッフルコートがよく似合う帰宅したてのS顔イケメンが、甘い笑顔で穏やかに微笑む。
片や高級スーツの大和撫子な美人男が、楚々とした柔らかな微笑みで迎え撃つ。
笑顔の罵りあいは、馬鹿らしいが絵になる美しさがあるものの、どちらのオーラも等しくドス黒いヘドロ色だ。
「……三初に似てたのかよ……」
誰かに似ていると思った、間森先輩の掴みどころのないところと、手ごたえのないところ。
間で苦虫を胃袋いっぱい詰め込まれたような顔で呟いた俺は、絶望にも似た気持ちで頭に手を当てた。
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