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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟む──翌日。
「あぁぁぁ~……ったまイテェ……」
「ほいよ。酔い覚まし」
昼休みになっても治りきらない二日酔い由来の頭痛に呻くと、向かい側に座る冬賀から薬が投げられ「サンキュ」と言って受け取る。
今日は二月十三日だ。
バレンタイン企画に携わる連中は仕事が終わりきっているので、このフロアの社員食堂はそれなりの賑わいを見せていた。
ホワイトデー企画に携わる俺はバレンタイン明けからが忙しくなるため、下準備を終えた今、今日明日は仕事に余裕がある。
にも関わらず。
俺は食事も喉を通らない体たらくで、カップ味噌汁を飲むだけの男と化していた。
「はっはっは、飲みすぎだなぁ。シュウは酔えば酔うほどめんどくさいのに、楽しいことでもあったのか?」
「ンなもんねぇわ。むしろムカつくことしかねぇ、けど覚えてねぇ……!」
「キャパ超えだな~。やけ酒と見た」
ズズ、とカップそばをすすりながらケラケラと笑う冬賀に正解を指摘され、むっつりと黙り込む。
なんとなく、中都に恋人の話を聞かれたのは覚えてんだよ。
それで三初のことをボヤかしながら当たり障りなく言っていると、だんだん腹が立ってきたというか、なんというか。
更に中都が酒を勧めてくるものだから、気がついたらやけ酒になっていた。おかげで記憶がない。
「うるせぇよ」
悪態を吐きがてら口の中に薬を流し込み、オルニチンが大量という煽り文句の書かれたカップ味噌汁を飲む。
俺は酔うと言うことを聞かなくなる。
なにを言っても「嫌だ」としか言わないし、酒をよこせと譲らない。
意固地に拍車がかかっていつも以上にツンケンと突っぱねるものだから、めんどくさい酒癖だと言われることが多い。自覚もある。
プラス、一定の量を越えると思考がユルッユルになり記憶が掠れて、気がついたら朝、というのもいつもの現象だった。
いや、マジで覚えてねぇんだよ。
一緒に飲んでいたやつらに聞いてもなぜかたいてい秘密にされる。
面白がってニヤニヤされるか慌ててはぐらかされるか哀れまれるか爆笑されるか、その他もろもろ。
恥を晒したり人様に迷惑はかけていないそうだが、腑に落ちない反応である。
だから自重していたのに、昨日は歯止めが効かなかった。どうも俺は嫌なことがあると酒を飲む量が増えるらしい。
「結論として、三初が悪ィ」
ぶすくれてそう吐き捨てると、目の前の冬賀はあっけらかんと口を開けて笑う。
「わは。なんでミハ?」
「知るか。本人に聞けよ」
「おうさ。ミハ、なんでシュウは昨日やけ酒したんだ?」
「さぁ? それは俺も聞きたいですかね」
「!? ゲホッ、ゴホッ!」
そしてその冬賀の笑顔が俺の背後に向けられたものだから、返答と共にのっしりと背にのしかかられた俺は、当然のように味噌汁でむせ返った。
──デジャヴかよッ! いい加減気配消して人様の背後を取るのをやめやがれこの性悪暴君野郎がッ!
お察しの通り、俺の背にのしかかってきたのは俺の恋人様で渦中の人物、もとい三初 要なのだ。わかってたけどよ。
「割と普通に近づいてるんですけどいっつも気づきませんよね、御割先輩」
「俺も言わないしなぁ」
「周馬先輩のそういうとこ好きですよ」
「マジでか。難攻不落のミハに好かれるとなかなか嬉しい俺だぜ」
「あはは。周馬先輩は誰に好かれてもそこそこ嬉しいでしょ?」
「そうともいう」
おいこらなに普通に受け入れてんだ冬賀コノヤロウ。
そんでなに普通に雑談してんだ三初バカヤロウ。
ゲホゲホと咳き込む俺を尻目に、のんびりとマイペースコンビが繰り広げるふわふわとした会話が癪に障り、額に青筋が浮かぶ。
冬賀は軽く天然で、三初は性分。
のらりくらりとしたこいつらがうまくいっているのは、そういうところだ。
俺には付き合ってから一度も好きと言わないくせに、冬賀に言ってどうすんだ、とは思う。割と強く思う。
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