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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟む「かわいとか、言われねぇよ。俺、泣いたらかわいいっつう……三初はバカヤロー」
グピ、と素直に梅酒を飲んだ。とはいえそれで満足というわけでもない。
三初はかわいいと言わないのに、中都は俺をそう言ってくれる。
俺が言われたいのは一人だけだ。
でなければかわいいなんて言葉、嬉しくもなんともない。だからなんだっつー程度。
アイツに言われたいのも甘めの言葉ならなんでも欲しいというだけで、言葉自体はどちらかというとムカつく言葉。
それでも、アイツが吐くなら要らないものじゃない。
「泣いてる俺と、拗ねてる俺と、怒ってる俺と、ベッドで頭がバカになってる俺は……まぁ、気に入ってるって、言ってたけど」
拗ね度はドンドン上がっていくのに、ちっとも下がらない。
あと、愛想笑いはヘタクソだから嫌いだって言ってたな。
んだよ。上手に笑えるから、俺じゃない先輩をキープしてんのか? 練習すんのに。クソバカ三初。
「うへぇ、そんなこと言うんすか? マジで捻くれてんじゃん。クズ男っつか鬼畜が服着て歩いてるようなもんっしょ~……でも俺からすっとかわいいすよ! センパイはどちゃんこかわい~!」
梅酒を一気に飲み干したせいで視界のグラつきが酷くなった俺に、中都は明るく笑ってかわいいと言ってくれた。
そう言われると……そうか? と思う。
期待で瞳がキラリと輝く。
可能性を見た話だ。中都の肩に乗せていた顔を上げて、伺うように質問を重ねる。
「中都。三初は、バレンタイン、俺の、受け取るか? 好きだって、言うか?」
「口がなくなっても言わせてみせるっすから肩ズンからの上目遣いでくんくん鳴かないでぇぇ……! もう俺のワンコセンサーバリ三でドキがムネムネなんすよぉ……!」
中都は何度も頷いてくれたが、そのまま畳の上に倒れ込んで悶え、しばらく起き上がらなかった。
変なやつだ。
まぁ俺の愚痴を聞いてくれたから、中都の変なところも許そうと思う。
──それから中都が俺に食事と酒を与えながら俺が三初の愚痴と相談をする飲み会は、述べ三時間強の濃厚な時間となった。
俺が支払いを済ませて外に出ると、タクシーを捕まえた中都が待っていて、後部座席に引っ張りこまれる。
「とりあえず俺んちで走ってもらうんで~……センパイ泊まっていきます? 新しいシャツくらいあるっすよ! この中都くんぬかりなし。センパイサイズで常備だべ」
「ンー……帰る。明日、仕事。そんで、新年会……」
「アチャチャ、また飲み会すか! 肝臓大丈夫、ってのは置いといて、尚更泊まってけばいいしょ! 俺明日休みっすから」
「ン~……や、いい……」
揺れの少ない安全運転の車内で、俺は中都の誘惑を頑なに拒否した。
確かにこのまま中都のうちに泊まったほうが面倒がなくて楽で、本人も喜ぶだろう。けれどそうはいかない。
「お前んち、泊まったら……怒るんだよ……三初……絶対ェ……バレたら面倒だろ……」
俺は窓に頭をゴン、とぶつけてよりかかりながら、ボソボソと説明をした。
されて嫌なことはしない。
というよりこういう事情なら俺は別に構わないが、三初はどんな状況でも笑顔で「は?」と首をかしげるだろう。
事前連絡は必須だ。でも飲んでいた理由は言えない。バレンタインがバレる。だから連絡しなければならない状態は避けるべき。
それに言えばたぶん、今すぐ迎えには来てくれそうな男だからだ。
三初は、嫉妬やら独占欲やらの有無は俺がわかるほどわかりやすくないけれど、所有欲は大いにある。……気がする。あればいい。
「かぁぁぁ……! この健気さを三初に知らしめてやりたいっ、しかし教えるのは癪でもあーる……! くそう、フラれろ三初ぇ……!」
「あ……? フラね……ん」
「忠犬シュウちゃんんんん……っ」
フワフワと酔いからくる眠気に犯されながら、中都の悶絶を放置する。
今日一日でどんだけ悶えてんだ。
てか結局なんで悶えてんだ?
よくわからないが、俺は三初をフる気はないし、できれば好きだと言ってもらいたいわけだ。それは確かな願望だった。
「……お? 待てよ。明日会社の新年会ってことは、三初もくる系? ってことはセンパイが泥酔モードになれば意地っ張りの呪い解除で、溜まり溜まった鬱憤をストレートに三初に吐き出すから……合法的に別れることになるのでは? 中都くん天才? みはにゃに『センパイに酒しこたま飲ませてみ』って教えたろ」
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