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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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四苦八苦、時折キレつつもバレンタイン用のコーヒーチョコマフィンを作り上げた俺は、中都を伴って戦闘、ではなく銭湯へ向かった。
午後の大半をお菓子作りに使ったおかげで、俺も中都もだいぶ甘ったるい匂いを纏わせていたからだ。
好きにさせてやると約束したのでされるがままに髪を洗われていると、中都のテンションは今日一番の盛り上がりを見せていた。
まあ、中都は髪を洗うのがうめぇんだ。
だからついつい目を閉じて「あー」と呻いてしまう。
余計喜ぶんだけど意味はわかんねぇ。
今日ずっとわかんねぇ。
散々好きに磨かれてドライヤーまでされたあとは、二人並び、腰に手を当ててフルーツ牛乳を飲む。
隣にあったコーヒー牛乳は見るだけで若干腹が立ったので、断固手に取らなかった。
コーヒーが好きなのかは定かでないものの、三初はよくコーヒーを飲んでいる。
だからただのチョコマフィンではなく、コーヒーチョコマフィンにしたのだ。
無糖のコーヒーなんて暴力的なものを愛飲しているくせに、甘いチョコレートを欲しがるとは……やっぱり理解しかねる。
味見をした時、俺の好きなチョコレートがコーヒーに侵食されたせいか、それともどうしても焦がしてしまったせいか、アレは少し苦い味がした。
一番綺麗なものをかわいげのない無地の箱に二つ詰めたけれど、アイツの欲しがったものがこれでイイのかはわからない。
うんうんと悩む俺を中都は無言でじーっと見つめていたが、頭の中が三初の腹立つせせら笑いでいっぱいの俺は構わずスルーした。
閑話休題。
話を進めよう。
風呂に入ってこざっぱりしたあとは、もちろん飲み屋へ。
それが大人のゴールデンプランである。
例に漏れずだらしのない大人な俺たちも、少し落ち着いた個室の居酒屋へ腰を落ち着けた。
そうしてカンパーイ! と浮かれた声の中都にやけに酒を勧められてから──だいたい二時間ぐらい、か。
普段はセーブしている俺も、今日ばっかりはじわじわと感じていたモヤのあれこれがとごり、三初の態度には、腹に据えかねていたのだろう。
飲めば飲むほど無愛想。
酒瓶抱えて威嚇モード。
しかしキャパシティを超えて酒を摂取すると、記憶が意地ごとブッ飛ぶ俺は──
「……みはじめ……殺す……」
「はいはい! 俺ちゃんも是非殺っちゃいたいっす~!」
──物の見事に、泥酔していた。
俺の肩を組んでジョッキを片手にみゃはみゃはと笑う中都と、ムスッと唇を尖らせカルーアミルクのグラスを両手で持つ俺。
犯人は当然、ご機嫌ポメラニアンだ。
俺の本音やら隠し事やらなにやらを聞き出す時は、しこたま酒を飲ませる。もちろん俺は気づいていない。
気づいていないというか、毎回一定以上酔うと思考回路がダダ漏れになるなと気づくのだが、その記憶ごと消滅するのだ。自白の永久機関である。
「いやぁ~……まさかとは思ったけどリアルに付き合ってたとか、驚き桃木俺ちゃんの木っすわぁ。いいなぁカレピッピとかなったら毎日合法的にシャンプーできるじゃん。やっぱり三初鬼ムカぁ……!」
「三初、ムカつくぜ。俺も」
「ね~? まじアリエッティだっしょ~?」
うりうりと俺をなでている中都には目もくれず、俺は目がドンと据わったままブツブツボソボソ悪態を吐く。
悪態どころか三初が恋人だということも、迫り来るバレンタインの悪夢も、謎の先輩の気配も、全部ゲロった。
けど、そりゃあ仕方ねぇよ。
だって三初はヒデェ男だ。
なんもないって言っときゃいいと思ってやがる。その言葉に効力を持たせる気はねぇんだ。俺をいじめること以外には省エネ過ぎる。
「……三初は、俺に、好きって言わん……」
それを思うと、キューン、と、拗ねた響きの声が出た。
中都が悶絶しているが知ったこっちゃない。
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