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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟む「ムッカぁ……ってか、センパイはなんで三初と一緒にいるんすかぁ~?」
「あぁ? そ、それはまあ……俺が直に教育した後輩だし、コンビだしな」
練ったバターに砂糖をドバッと入れて、またネリネリと練る。
中都が物言いたげな顔をしていたが、手を出すなと言ったからかなにも言わなかった。……な、なんだよ。
眉間にシワを寄せながらぐるぐると砂糖が混ざるように力の限り混ぜ、そこに卵をパカッと割る。……だからなんだよ。
「でもただの後輩なのにセッ、じゃねぇや寝てるじゃないすか! ズルいっす! 俺とはちっとも寝てくんねー!」
「おぁっ!」
ガションッ、と混ぜる勢いが逸れて、卵の混ざったペーストが手に付いた。
なんっ、なんて言った今……!?
寝てる? 添い寝だよな? 隠語的なアレじゃねぇよな?
せっかく隠していたことがすでにバレていたのかと思い、焦って中都に迫り寄る。
「て、テメェなんで俺と三初が寝てること知ってんだ……!?」
「そりゃあ前に三初が言ってたっすよ。ほら、センパイに服あげて三初に連れ去られた次の日っす。二連泊と添い寝したって」
「あ、あぁ、あの時のか、うん。そうか。ならイイわ」
慌てたものの疑惑があっさり晴れ、俺はほっと一息吐いた。
なんだ……風邪っぴき翌朝のアレか。
しかしこうなると三初の話題は、危険だ。中都はアホだがバカじゃない。どこかでバレてしまうだろう。これ以上突っ込ませたくない。
「ッし。もうどうでもいいからマフィンに集中すんぞコラッ」
「えぇー? センパイが三初のこと振ってきたのにー?」
中都は不満そうに唇を尖らせるが、手についたペーストを舐め取りながら、俺は煮え切らない返事で話を終わらせることにした。
とにもかくにも、このバレンタインの贈り物、というものを作り終えることが先決である。最優先事項だ。でないと変態プレイの餌食になっちまう。
──ったく、いつも愉快であくどい遊びの餌食にしやがって……アイツはマジで俺のこと好きなのかよ?
ブツブツと心の中で悪態を吐く。
ふと思い出すのは、数日前に見た間森先輩とやらからのメッセージ。
「…………」
「修介センパイ、それは中都くんストップっす。彼女にあげるマフィンにタバスコビシャがけはまずいっす」
「彼女じゃねぇわ、あんなやつ」
「ほ? 喧嘩なう?」
「ケッ、プライベートは詮索禁止なだけだッ」
「ひょえっ」
無意識にタバスコの瓶のフタを取った俺に、中都が待ったをかけた。
唸り声をあげつつもフタをかぽっとハメ直し、調味料の箱に戻す。
中都から悲鳴が上がるが、一度曲げたヘソはなかなか真っ直ぐに直らない。
別に? 喧嘩なんかしてねぇよ?
してねぇから俺はアイツのオネダリを叶えるために、作ったこともねぇ菓子なんざ作ってんだからな。
具体的にこれとは言わないくせに、不快と思わない云々ってな制約をつけやがる。
そのくせ催促も確認もしやがらねぇ。
「…………」
……ホントは忘れてンのか?
十二分にありえる可能性に、俺はうぅんと悩みを深くした。
わずかばかりの焦燥と寂しさが胸の奥からヒョコ、と顔を出す。
忘れてるのかもだ。
そうじゃないなら、あとはそう。
バレンタインチョコを強請ることで、あの先輩の問題から俺の意識を逸らそうとしてた、とか? ……ありえるじゃねぇか、畜生が。
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