誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
224 / 454
第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です

18

しおりを挟む


 口では勝てない上にこのモヤモヤごと誤魔化されかけた俺は、黙って中指を立て、没収された食事の残りを回収した。

 こういうことをされるから、早起きしようがいつもと変わらない時間に家を出ることになるのだ。


「機嫌直りました?」

「ふぁ、んぐ。今ので直ると思ったんなら、お前相当俺のことチョロいと思ってんだろ」

「チョロいでしょ。直ってんだから」


 やかましい、って二回言わせんな!
 機嫌が直ったんじゃねぇ! 折れてやったんだ!

 まんまと毒気を抜かれてしまった本心を見抜かれた俺は、そっぽを向いてから最後のおかずを食べきった。

 クソ……有耶無耶にしやがって。

 フリーな前と違い、俺という恋人ができた三初にも構わずあぁいうことを言ってくるってことは、それでも構わないってくらいのライバルかもしんねぇのに。いやまぁ普通に言ってねえだけかもだけどよ。

 考え出すと、大人の俺が『プライベートの関係はいくら恋人でもどうこう言うもんじゃねぇぞ』と言う。

 しかしその隣で恋人の俺が『でもソイツを笑顔でエスコートなんかしてたから、俺と一回喧嘩したんだぜ? 嵐再来の可能性を見て説明するだろ』と言う。

 人の心は移ろうものだ。
 フラれ癖のついた俺は、身に染みてそれを知っている。

 とりわけ三初は気まぐれなのだ。
 俺が不安に思うのは、当たり前だろ? 全然、おかしなことじゃねぇと思う。うん。


「まぁ、別になんもねぇならイイけどよ……言っとくけどな。お前の恋愛対象が男も込みって時点で、俺の気分的には彼女が男と一晩過ごすっていう胸糞悪ィ展開と一緒だかンな? そこンとこは忘れんなよ」


 食べ終わった食器を片付けてキッチンに運びながらそう言う。
 これが最大限の譲歩だ。

 なにも言わずに我慢するのは性格上ムカつくが、三初の交友関係を束縛することも、無理矢理言いたくないことを聞き出すことも、しない。

 青臭い学生の恋と違うところは、自分で自分の感情と相手の言い分の折り合いを付けなければいけないところである。

 ガシャガシャと食器を洗いつつ、モヤを落ち着けていく。

 洗い物は割と好きだ。なんか落ち着くだろ?
 掃除とか、マメにはしねぇけど一度始めるとなかなかやめどころがわかんねぇよな。

 キュッ、と蛇口をひねって温水を止める。
 タオルで手を拭くと、まぁまぁ諦めもついた。取り敢えずは出勤しなければならない。

 そうして着替えるべく歩き出した俺をずっと眺めていた三初が、テーブルに肘をついたままいつもの調子で引き止める。


「俺が浮気すると思われてる時点で心外ですけど……わかりましたよ。先輩は意外と、付き合ったら独占欲あるタイプなんですね。リョーカイ。今後はそういうとこも積極的にイジっていきますよ」

「誰がそこ刺激してこいっつったんだよコラ! 独占欲なんざねぇわ!」


 お陰様でせっかく落ち着けた気が、物の見事に噴火。

 第二ラウンド開始で、いつもより遅い時間の出勤となったことを、お知らせしておく。

 クソッ……なにが独占欲だチクショウめ。そんなもんねぇッ!
 もしもちょびっとだけ、奇跡的に、仮であるとして、それをわかってンならおとなしく独占させろよッ!




しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...