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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟む口では勝てない上にこのモヤモヤごと誤魔化されかけた俺は、黙って中指を立て、没収された食事の残りを回収した。
こういうことをされるから、早起きしようがいつもと変わらない時間に家を出ることになるのだ。
「機嫌直りました?」
「ふぁ、んぐ。今ので直ると思ったんなら、お前相当俺のことチョロいと思ってんだろ」
「チョロいでしょ。直ってんだから」
やかましい、って二回言わせんな!
機嫌が直ったんじゃねぇ! 折れてやったんだ!
まんまと毒気を抜かれてしまった本心を見抜かれた俺は、そっぽを向いてから最後のおかずを食べきった。
クソ……有耶無耶にしやがって。
フリーな前と違い、俺という恋人ができた三初にも構わずあぁいうことを言ってくるってことは、それでも構わないってくらいのライバルかもしんねぇのに。いやまぁ普通に言ってねえだけかもだけどよ。
考え出すと、大人の俺が『プライベートの関係はいくら恋人でもどうこう言うもんじゃねぇぞ』と言う。
しかしその隣で恋人の俺が『でもソイツを笑顔でエスコートなんかしてたから、俺と一回喧嘩したんだぜ? 嵐再来の可能性を見て説明するだろ』と言う。
人の心は移ろうものだ。
フラれ癖のついた俺は、身に染みてそれを知っている。
とりわけ三初は気まぐれなのだ。
俺が不安に思うのは、当たり前だろ? 全然、おかしなことじゃねぇと思う。うん。
「まぁ、別になんもねぇならイイけどよ……言っとくけどな。お前の恋愛対象が男も込みって時点で、俺の気分的には彼女が男と一晩過ごすっていう胸糞悪ィ展開と一緒だかンな? そこンとこは忘れんなよ」
食べ終わった食器を片付けてキッチンに運びながらそう言う。
これが最大限の譲歩だ。
なにも言わずに我慢するのは性格上ムカつくが、三初の交友関係を束縛することも、無理矢理言いたくないことを聞き出すことも、しない。
青臭い学生の恋と違うところは、自分で自分の感情と相手の言い分の折り合いを付けなければいけないところである。
ガシャガシャと食器を洗いつつ、モヤを落ち着けていく。
洗い物は割と好きだ。なんか落ち着くだろ?
掃除とか、マメにはしねぇけど一度始めるとなかなかやめどころがわかんねぇよな。
キュッ、と蛇口をひねって温水を止める。
タオルで手を拭くと、まぁまぁ諦めもついた。取り敢えずは出勤しなければならない。
そうして着替えるべく歩き出した俺をずっと眺めていた三初が、テーブルに肘をついたままいつもの調子で引き止める。
「俺が浮気すると思われてる時点で心外ですけど……わかりましたよ。先輩は意外と、付き合ったら独占欲あるタイプなんですね。リョーカイ。今後はそういうとこも積極的にイジっていきますよ」
「誰がそこ刺激してこいっつったんだよコラ! 独占欲なんざねぇわ!」
お陰様でせっかく落ち着けた気が、物の見事に噴火。
第二ラウンド開始で、いつもより遅い時間の出勤となったことを、お知らせしておく。
クソッ……なにが独占欲だチクショウめ。そんなもんねぇッ!
もしもちょびっとだけ、奇跡的に、仮であるとして、それをわかってンならおとなしく独占させろよッ!
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