219 / 454
第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
13
しおりを挟む「今回は既存の製品でだったろ? 中高生向けの価格帯だ。男はまぁ、気合い入れたもん返すとセンスで爆死。だから外さない菓子類を渡す。本気感があっても困るしよ」
「そうですね。その年頃だと親に選んでもらうってのもないから、まー、そこプッシュして企画通したなぁ。俺たち社員は大人ですから、他の企画は無自覚に気取ってましたしね」
「まぁな。あげんの男でも食うの女だってのに男向けゴリゴリ仕様じゃダメだろ」
次第にウキウキと語り始めた俺に、三初はニンマリと相変わらずの表情で文句を言わず相槌を打った。
「俺は気取ったやつが下手くそだかンな。でも男はカッコつける。キャッチコピーはそこで差をつけてよ。で、先月はデザインコンペも白熱したわ」
「うちのデザイン部、物の見事に得意系統バラバラで我が強いですから」
前を向いていた首を三初のほうに向け、そらな、と笑う。
そのデザイン部といつも合同で新年会をするのは、仕事で絡むことが多いからだ。
女が多い部だから俺は苦手。というか怖がらせるしあんま声かけられたりしないから、いつも三初が代わりに間に立っている。
「ホワイトデーはよ、男がターゲットだろ? 友チョコシェア占めてっから女も結構多いけど。でも主体は男だから考えやすい。ちょっと理屈っぽい説明つけてやってさ。中身とデザインはやっぱ両方にウケるようにするけどなァ」
「パッケージにデコれるところ作るのとか、女子向けポイントね。公式SNSでも死ぬほどデコったお遊びトゥイートしたし」
「まさか仕事中にガチで工作するとは思わなかったぜ……どっかの誰かじゃあるまいし」
「誰のことやら。あとは、メッセージ入り小分けパックで義理チョコ狙いとかも女子向けですかね。口下手な男とかも?」
「くくく、お前じゃねぇか」
「棚の上に自分上げてますよ」
「ほっとけ。そもそも俺はホワイトデーなんかオフィス一括のでしかしねぇよ」
「ふぅん」
やっぱり俺は、こいつとのなんの気もない日常会話が一番楽しいのだろう。
BGMと化しているホラー映画なんて、いらないのだ。
まあ無駄にはしない。また次の休みに見直すという口実で、家に呼べばいい。
飯に誘うと夜になるから、昼に誘える口実があるほうがいいわけである。……長くいられるから、までは言わないが。
すっかり機嫌を良くした俺はある意味口下手な天邪鬼の脚を、再度パシッと叩いた。
けれど今度は三初のほうがなんだか気の抜けた返事を返して俺の顔に手を伸ばし、額にバチンッ、とデコピンをする。
「いッ……てぇな、なんだよッ?」
コノヤロウついさっき俺が拗ねたことを忘れてんのかオイ。
イテェだろうが、なにすンだ。
けれどさっきは俺がうまく機嫌を取ってもらったので威勢良く噛みつけず、複雑な気持ちで三初を睨みつけるに留める。
俺の眼光になんて基本ノーダメージな三初は、のんべんだらりとマイペースに「んー」と声を漏らし、俺の手首を掴んだ。
「しないんですか? バレンタインも? 俺、恋人なのに?」
「なん、……っ、しねぇわアホ」
そんな言葉と共に透き通ったハチミツ色の瞳に責められ、ドキ、と心臓が避難勧告を出した。
──なるほど。
コイツが引っかかったのはそこか。
16
お気に入りに追加
1,388
あなたにおすすめの小説



イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる