180 / 454
第五話 冬暴君とあれやそれ
49
しおりを挟む呑気に挨拶をする三初の言葉に驚愕した俺の口元をサッと押さえつけるこの手は、さっきまで俺の耳を弄んでいた悪魔の手である。
そして挨拶されたと思しき返答の声が裏返り、それが俺の知っている課長の声だったものだから、脳内大パニックは回避できない。
──ま、まさか俺……直属の上司の前で目隠し拘束プレイっつー変態みてぇな姿を、晒されてんのか……?
「ンンッ、ンーッ!」
サァァ……! と血の気が引き、押さえられた口で必死に叫んだ。
そんなことあっていいはずがねぇ。
俺の脳内で小さな俺がコロコロコロコロと暴れ始め、いっそ今すぐ殺してくれと叫んでんだぞ。
だって、う、嘘だろ?
誰か嘘だと言ってくれ。
このままじゃ俺は来週から「御割って変態だったらしいぞ」と課内で噂になった挙句、指を差して笑われちまう!
そんなの嫌だ。お断りだ。ノーセンキューだッ!
「なんっ、なんでそ、えっ、待て待て」
「課長。俺たち急用で帰ります」
「口頭!? いやいや、み、三初ぇ~……? お、御割はこれ、どうしてこうなったんだ、えっ? えっ?」
「今日の業務に関しては諸々パソコンにメールしておきましたので、把握だけよろしくお願いします。緊急かつ重要なトラブルは先輩の案件も含めて俺の個人パソコンにメールください。各員進捗も把握した上での判断ですから、問題ありませんよね?」
「うん、うん! それはもういつも君の見立ては信用してるけど、そうじゃなくてこの、御割が明らかに非合意で拉致されてる状況は、わ、私も課長として人として、待ったをかけるべきかなぁと……!」
許せるわけがないため懸命に抵抗するが、当然逃げられない。
脳内大パニックな俺があたふたしていると、仕事に関しては有無を言わせない三初に負けた課長だが、この状況には流石にまったをかけてくれた。
もはや課長だけがよすがだ。
課長、頑張ってくれ……!
このままじゃ俺は言い訳もできないまま社会的に恥を抱えつつ、このあとめちゃくちゃにされちまうんだよ……ッ!
最近頭髪が薄くなってきたことと腹が出てきたことを気にしている課長に祈りを込めつつ、俺は三初に支えられたままモゾモゾと懸命に身じろいでみる。
そんな俺と課長の涙ぐましいストップに、大魔王は「そういえば」と普段通りの様子で口角を上げた。
「課長、娘さんの誕生日が近かったですよね。まだ欲しいものを聞き出せてないなら、今年もお手伝いしましょうか?」
「…………」
「ン、ンンーッ」
「ほら、最近喧嘩して口聞いてくれないって言ってませんでしたっけ」
「…………」
「ンン、ンッ」
「娘さんとは社のバーベキュー会で会った時から割と話せるんで、俺なら仲直りさせられるかと思いますが……うーん……今すぐ先輩連れて帰らなきゃ、時間空かないかもしれないなぁ……」
「……。……御割、合意だよね?」
「ン゛ッ!?」
「よし! 返事したね! 合意! 大丈夫大丈夫、三初の教育係なんだから用事も一緒に行って当然だよね。うん。有給処理しておくからそっちは近々よろしく。二人とも有給消化率悪いからちょうどいいしさ!」
「はは、ありがとうございます。時間空けておきますね。じゃ、お疲れ様です」
か、課長が買収されちまった───ッ!
脳内BGMがドナドナに変わると共に、課長の「お疲れ様!」という爽やかな声が聞こえ、俺はエントランスを引きずられていく。
いやまあ、確かに三初は元々上司だろうが誰だろうが手に負えない暴君だ。
故に俺というお気に入りのオモチャをあてがって、もりもり働かせたい時に間に挟む首輪としていたわけで。
「っぷはっ、か、課長! コイツの用事セックスですからっ! 課長、課長ーっ!」
「はい乗ってー」
「うおッ!?」
バタンッ、と閉じるドア。
駐車場まで引きずられた挙句荷物のように押し込まれた俺は、誘拐よろしくドナドナされていくのであった。
……これがお付き合い当日の出来事なんて、世も末だッ!
20
お気に入りに追加
1,376
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~
雷音
BL
全12話 本編完結済み
雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ
一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。
※闇堕ち、♂♂寄りとなります※
単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。
(登場人物は全員成人済みです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる