誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第五話 冬暴君とあれやそれ

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  ◇ ◇ ◇


 帰宅後。コートとスーツを脱いでドサッ、とソファーの上に倒れこむ。

 ズリズリと身じろいで仰向けにひっくり返り、ぼんやりと照明を眺めた。

 一人暮らしの部屋には、照明のブーンという音と時計の秒針が奏でるカチカチという音だけが響く。あとは自分の衣擦れの音。

 窓の外からは車の音が聞こえるが、流石に夜の十時ともなれば出歩いている人はそれほど多くなかった。

 チラリと視線を横にズラす。

 ローテーブルの上に置いたA5サイズの紙袋には、唸りながら頭を掻き毟って選んだクリスマスプレゼントなるものがある。熱を出した時のお礼も兼ねた下心に塗れたもの。

 けれど必死の結末にしては、それを見る視線が冷たくなってしまった。

 理由なんて、なんのことはない。

 出会って約三年半。体を重ねる関係になってから半年近く。
 俺は三初が好きだと言いながら、アイツのことをなにも知らなかったからだ。

 好きなものも趣味もわからないから、プレゼント選びに苦労した。

 好きな色も知らないから、リボンの色は俺が勝手に決めた。

 アイツの家へ届けようと思ったけれど、家も知らない。この部屋で一緒に過ごしたあとどこへ帰るのか、俺は知らない。俺から会いに行けない。

 それに気がついてからよく考えると、俺からアイツに歩み寄ったことがほとんどないように思う。

 アイツはいつもフラリと現れてフラリと消えていく。野良猫のように。俺が三初に用があっても、探す前にアイツは俺をいじめにやってくるから、それで事足りた。

 それはつまり、終わってしまえば俺からは始められないということ。

 ガサツと鈍感のツケ。
 ……だけど、そんなのは嫌だ。


「あ……?」


 そうやってぼうとしていると、腹の上に置いていたスマホが、ポキポキとメッセージの受信を知らせた。

 後悔に入り浸り恋しさで消えそうな俺は、ノロノロと手を動かして億劫な動きでスマホを開く。


『それで、なんですか』

「っ」


 ぎゅう、と眉間に皺が寄った。三初だ。
 慌てて返事をしようと画面をつつく。


『いや、もういい。悪かったな』

『え、なんで謝るんです? 変なもん食べたんですか』

『そんなことねぇ。だいじょうぶ』


 感情が伝わりにくいメッセージだからこそ、そっとそっと、なるべく乱暴な言い方にならないように文字を打って送る。

 けれど既読がついているのにすぐに返事がない。

 なんだ? なにも変なことは言ってないはず。いつもよりずっと丁寧なメッセージなのだから間違いない。

 もしかしてこれでやり取りが終わったのかと焦る俺の視界にテーブルに乗ったプレゼントが映り、ハッと思いついた。

 そうだ、届けに行こう。
 そしてちゃんと謝るんだ。


『今家か?』

『はい』

『そっち行くから、住所教えてほしい。大した用じゃないしすぐ帰るから』

『来ないでください』


「……、……」


 たった一文で、ピタリと手が止まる。

 なんでだ? 時間が遅い? でもほんの少しだし、ひと目会うだけならそれほど遅くはない。早寝している様子は普段ないし、秘密主義でもない。聞かれないと言わないだけだ。

 グルグルと考えているうちに三初のメッセージが重なり、ポキポキと受信を告げるスマホ。


『声聞きたいし直接聞く。かけますよ』

「はっ……?」


 ──チャカチャカチャカン。


「!」


 どうしてプライベートスペースに近づくことを拒絶されたのか、という不安な思考が処理できないままに新たな問題が追加され、反応するより早く着信音が鳴り始めた。




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