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第五話 冬暴君とあれやそれ
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しおりを挟む通路の端に寄りアワアワと慌てながらなぜ切られたのかを必死に考える。
時間を見てみると余裕の夜八時。眠るには早い。しかもアイツはほぼ寝ないはず。ショートスリーパーとかいう理解不能の人種だ。常時寝不足だから常識が欠落してんのか? ってのは今は置いとけ俺。
「なーどしたって」
となると今は着信に出られないところにいることになるが、出かけるとは言っていなかった。だとしても無視すればいい。
わざわざ切るってことは、俺からの着信音を終わらせたかったってことか?
いや、自分の用事なら一人で自由に行くタイプだ。三初はイブに興味がなかったので、片想い相手と改まって約束を取り付けているわけもない。と、思う。たぶん。
「お前まさか、彼女か? 片想いか?」
イブに興味がないと本人から聞いた。
プレゼントや記念日なんかもいやな思い出があるから、やりたくないとも言っていた。聖夜に甘いことなんてしない。
「俺に秘密なんて水臭いだろー」
とするとどうして通話を切ったのか、全く予想がつかなかった。
悩みつつも今マインを開き、トットッと確認のメッセージを打ってみる。
あと冬賀うるせえ!
『なんで切ったんだよ。どこだ今』
『家ですよ』
真剣そのものな俺なので隣で騒ぐ冬賀を華麗にシャットアウトしつつ、三初にメッセージを打った。
すると意外にもすぐに既読がつき、俺と同じく素っ気ない文面がデフォルトな三初の返信が来る。
別に無視されなくてホッとなんてしてない。元から既読無視はされねぇぞ。
『てかなんで通話? 先輩普段俺に前フリなくかけてきませんよね。仕事ですか』
ぐっ、痛いところを突かれた。
確かに俺がプライベートで三初にかけるなんてことは、レア中のレアだ。
文字で打つと恥ずかしいので、それはスルーしておく。
というか、三初こそ家にいるのに電話に出れないってのはどういうこった。
『いや、仕事じゃねぇからいい。つかなんで家にいて出れねぇんだよ』
『逆になんで家にいたら確で出るシステムになってるんですか』
『そういうことを言ってるんじゃねーよアホか』
『すいません続きはあとで』
『おい』
スマホで文字を打つのが遅いなりに、どうにか話を進め、話し合いの糸口を探る。
のに、またもや不思議なことにブチ切りされてしまった。かなり雑に。既読もつかなくなった。コノヤロウ。なんで速攻で切った。
ドスッドスッ! と本人を突き刺せない代わりに、スマホの画面に映るアイコンを突き刺す。
やはり塩っぱい。
塩っぱすぎて、様子のおかしかった三初の理由がますますマイナスへ傾いた。
なんだよ。
普段頼んでなくても構ってくるくせに、こんな日に限って邪険にしやがって。
「……チッ」
表向き苛立ちを装い、舌打ちをして乱暴にスマホをポケットに入れ直した。
ズカズカと再び歩き出すと、ずっと横でなーなーとウザ絡みしていた冬賀が不思議そうに着いてくる。
それをじろりと横目で見て、ボソリ。
「…………片想いの、その、相手が、急に素っ気なくなる理由って、なんだよ」
「おおっ、ついにシュウにも新しい春かぁ……!」
「気になるだけだッ!」
真っ赤になった俺がグアッ! と威嚇すると、冬賀はあははと笑って「人はそれを恋という」とほざきながら俺の肩をトンと叩いた。
うるっせぇなまだ小火なんだよ!
全然、全然モヤついてなんかいねぇッ!
「んでその女がどうしたって? 今通話ブチられたんだろ?」
「フン、知らねぇよ。拗ねてんだろたぶん。ただ別れ際に俺が、……ちょっといつもの感じで暴言を……」
「なんて言ったんだよ」
三階の女性向けショップゾーンへ向かうべく、エスカレーターに乗って人のざわめきを通り過ぎる。
予想以上に三初の素っ気なさが気になって仕方ない俺は、ざわめきの中でボソボソとことの次第を説明した。
もちろん相手はぼかしてるぜ?
始まりというか、きっかけも適当に誤魔化しつつ、とりあえず気になる相手ということで紹介し、対応の相談をする。
冬賀の向き不向きがプレゼント選びで、俺の向き不向きがコミュニケーション関連であるのは、お互い知り尽くしたことだ。
こんなことを相談できるのは高校三年間を共に過ごしたあと同じ会社で七年付き合いのある冬賀だけだからな。
合計十年。頼むぜ腐れ縁。
でないと俺は恋の相手と共に同じ部署で隣のデスクの後輩をなくすんだからよ。気まずさの限界突破だわ。
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