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第五話 冬暴君とあれやそれ
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しおりを挟むそうすれば素っ気ないのも辻褄が合う。
合う……、いや合わねぇかもしんねぇ。
「…………」
よく考えると、三初は俺をバカだと思ってるからって黙ったりしないことに気がついた。
ここぞとばかりに口数が多くなる。楽しんでるからな。俺イジメを。
とすれば、様子がおかしい上に素っ気ない理由はなんなのだろう。
ほじくり返せば朝からずっと俺にだけ静かで、絡んでも来なかった気がする。
……もしかして、俺はいつの間にか、三初に興味を失われつつあるのだろうか。
ビクッ、と僅かに指先が震えた。
どれだ。心当たりがあり過ぎるぞ。
特に昨日はそれなりに暴言を重ねた記憶があるしな。同じくらい重ねられてるけどな。裁判なら戦えるくらいにはな。
しかし冷や汗がタラリと首筋を伝うのは、なぜか。
それは俺が焦ってるからだ。
否めない。やべぇ、考えりゃ本気で思いのほか焦ってきた……!
俺は自分が全部悪いなんて思わないがもし自分がやらかしたことがアイツの地雷なら? という可能性が否めず、ソワソワと焦る。
仕事を手伝ったのは、俺の仕事が遅すぎて呆れて手ぇ出しただけなんじゃねぇか?
だからあんなに素っ気なかったんだ。
ほとんど喋らなかったのは、いちいち噛みつく俺の説教がうるせぇから鬱陶しくなったんじゃねぇか?
話すのもめんどくさいくらいだから、無言の訴えを起こしてたんだ。
つか、喋る気分にもならなかったんだ。
「……一日中気づかなかった……ッ」
まずい、まずいぞ。
サァ、と青ざめながら、俺は必死に原因を遡る。
三初がおかしくなる前、確か最後に言った言葉は。
『帰り道単独で事故れッ!』
だめだ。うん。
三初相手だと居心地いいからって、最近あけすけ過ぎた。このくらい気にしないだろうって思うがまま過ぎたのだ。
年下の後輩ってことを忘れていた。
俺の口が悪いってのも忘れていた。
いつも悪気なく言い過ぎちまうって忘れてたぞ。普段は気にしなくっても、乱暴なことを言われ続けて嫌な気分にならないわけがない。
──あ、謝るしかねぇ!
「それで沙耶は素朴でいい子でさ~」
「ちょっ俺、電話するわッ」
「ん?」
歩きざまずっと彼女の話を語っていた冬賀へ矢継ぎ早に断りを入れ、ポケットから取り出したスマホをトトトッ、と操作した。
思い立ったがすぐ行動。
誰しも謝るのは苦手だろうが、例に漏れず俺もそうだ。
それでもあんな黙りこくって言いたいことを言わない三初なんて、三初ではない。
他の誰がなんと言おうとプラスやマイナス問わず感情を抱く相手に物を言わないことは断じてないのだ。
必ずコケにする。必ず嘲る。必ず面白おかしく引っ掻き回して、必ず自分の思うとおりにする。それが三初 要という生き物。
なのに黙るなら。
素っ気なくあしらい存在を薄めるなら。
それはそれだけ機嫌を損ねたか、俺への興味が皆無なのだ。
あくまで俺の見解だけども。
(マジか、マジか~……! 様子が変とか全然忘れて普通に買い物してたぞ俺ぇ……!)
三初をよく知らない頃のただの先輩後輩の時なら、こんなことは喜びこそすれ、焦ることはなかっただろう。
今は違う。アイツと交わすくだらない言い合いが本当は好きなのだ。蓄積した苛立ちで話してくれなくなるほど傷つけたのならまずい。
どうでもいいとは思われたくない。
「おい、シュウ?」
「しー……ッ!」
電話帳から三初を見つけ、脇目も振らずに通話ボタンを押した。
プルルル、プルルル、と断続的な通信音が鳴り、三コール目ほどでザザッ、と応答された気配を感じる。
「みっ」
ブツッ。
「……は!? なんで切ったッ!?」
ところがなんのつもりか、なぜか通話をコンマで切られてしまった。意味がわからない。タイミングが悪かったのか?
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