誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第五話 冬暴君とあれやそれ

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「一人は……クリスマスの埋め合わせーって試験直前にデートに振り回されて会計全部俺持ちでしょ? んでクリスマスプレゼント強請られてSNSで自慢用にツーショット撮られて許可なく画像上げられて、ね。それ見た彼女の友達が会いたいーとか言って強制召喚? からの寝取りのお誘い? ま、普通に帰りますよね」

「うわぁ……」

「個人的にはマウント取るためにやたらイチャイチャさせられてラブラブカップルぶられたのが最低にこたえたなぁ……最初そんな女じゃなかったんですけどね。そんで別れたらヒステリックに泣かれて、謎に慰謝料請求とかされましたよ。結婚してねぇのに」

「うわぁ……っ」

「っても超悲しそうな顔でその子の友達たちに不幸自慢した上で『過ぎたことだから恨んでないけどね』って痛々しく笑っておいたんで、余波は問題なしでしたわ。寝取り誘ってきた人もスマホのボイスレコーダー密かに起動してたんで、牽制余裕。みんな世間体大事でしょ?」

「うわぁ……ッ!」

「しばらく彼女はいらない、で傷心に漬け込む肉食女子も一掃。成績優秀な俺は教授にも顔が利くので、あれこれ事実を脚色して吹き込みなんとやら。超平和」

「マジで悲惨すぎんだろ」


 聞かされたメモリーの癖が強すぎて、俺はうげぇと舌を出して震え上がる。

 三初のことだから黙って別れるだけに留めるとは思わないが、本当に鬼畜だなコイツ。

 どう考えても相手の子にとっての悪い思い出だ。いやまぁ相手が悪いけど。

 無許可で流出されて散財されて女に襲われたら、愛想も尽かすわな。
 曰く、なぜか三初と付き合う女は付き合っているうちに性格が変わったり別れ際にゴネたりと濃いタイプが多いらしい。ウゲェ。

 ウゲウゲとドン引きを前面に押し出した表情を向けると、三初は心外そうにやれやれと肩をすくめた。

 なにが心外なのかと尋ねると、振り回されたとはいえ噂話を振りまいて身の安全は確保したものの、無条件に全力の尽力を求められるのが腑に落ちないことと、三初の恋人としてなぜか自慢げに振る舞い始める彼女の変貌がトラウマなのだと言う。

 だから前半は相手にとってのトラウマだっつってんだろテメェ。

 俺にゃわかんねぇ。
 自分の女が喜ぶなら尽くしてやればいいのによ。自慢にされんのはいいことじゃねーの? ……いやそれはプレッシャーか。

 けど、なんでそんな他人からのイメージをわざわざ自分から早々にぶち壊すのかはちっともわからん。三初はわからん。


「他のも聞きます?」

「ノーセンキュー」


 自分ではならない状況と自分ではしない考え方の思い出話に、俺は早々と白旗を上げた。

 俺が悪かった。もういい。
 捻くれまくった三初にイベントきっかけの親愛度アップなんて、仕掛けるだけ無駄だったのだ。

 せっかく一緒に過ごせば楽しいかと思ったのに、本人の性分がこれで記憶がそれならどうしようもねぇし。

 ただ、女の好みが一つだけわかったぜ。

 荒んだ俺はジロ、と死んだ魚のごとき双眸で横睨みにする。


「お前、あれだろ。報復を決定する前に一応彼女に貢いだってことは、プレゼント自体は別にやってもいいと思ってんだろ。金に興味ねぇんだからよ」

「あら? んん、そうかも。腑に落ちますね」

「で、も!」

「でも?」


 ビシッ! と指先で三初を指して、眉間をシワシワにしながら恫喝じみた表情に変えた。


「クリスマスやら記念日やらにかこつけて自分からあれこれ強請るような女は、好みじゃねぇから冷めてくんだろ。だってお前、求められると拒否したくなる屈折ハート大魔王だかんな」

「あー大正解。ピンポーン」

「めんどくせぇぇぇぇ……ッ!」


 静かにブレーキが踏まれて、見慣れたマンションの駐車場に止まる車。

 打って変わって軽快な声を返された俺はガシガシと頭を掻きむしって、苛立ったような疲れたような悲鳴を上げた。

 ぐあぁぁッ!
 そんなこったろうと思ったぜ!

 だって今日みたいな嫌がらせの餌としてじゃなくても、割とコイツは日頃メシを奢ってくれるんだよ。先輩の威厳で伝票争奪戦になるけどなッ。黙って奢られてろよバカがッ。


「恩を売る。弱みを握る。俺ダーイスキ」

「悪の化身じゃねぇか! 送ってくれてありがとよ! テメェ帰り道単独で事故れ!」


 人身事故や巻き込み事故は良くないのでソロ事故の呪いをかけ、俺は憤慨しつつ車を降り、バタンッ! とドアを閉めた。

 恋愛下手かよバカがっ。
 相手に愛想尽かされて泣くぞコラ。いや、こいつの恋なんざ応援してねぇけどよ。むしろ破綻したほうがいいけど、ちょっと悔い改めろっ。

 クソ、もうクリスマスなんか知らん。
 クリぼっち極めてやがれ悪魔超人が。

 内心で散々キレつつ軋む体を引き摺って、振り向くことなく部屋に向かい、逃げるように帰宅した俺だった。

 別に、拗ねてねぇからなッ。




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