誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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閑話 犬の知らない物語

02(side三初)※

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 そうしてしばらくちゅくちゅくと肉穴を掻き混ぜていると、力なく萎えていた性器がいつの間にやら芯を持ち始めていることに気がついた。


「はぁ……ぁぁ……」

「寝てんのに感じちゃって、ホント、やらしい体だな」

「ぁ…ん……ん……」


 トロ……と汁を滴らせて、触って、とばかりに存在を主張するそれを、前立腺を押し潰しながらお望み通り擦ってやると、襞が嬉しげにうねる。

 静かな室内には、先輩が呼吸を乱す吐息とか細い喘ぎ声、クチュクチュと体の中と外を掻き回す音だけが響く。

 本人の意識は相変わらずない。
 だから自分の体からこんなにも淫らな音が奏でられているなんて、気づきもせずに夢を見ている。
 そう思うと笑いそうになった。


「……ぁ、…あ、……っヒィ……」


 一際大きく震えたかと思うと、内壁が痙攣しキツく指を食いしめる。
 そして硬さのない肉茎からビュ、と僅かに透明な液体が溢れ出た。


「あはは」


 おっと失敬。せっかく我慢したのについ声を上げてしまい、声量を抑えてくつくつと喉奥で笑う。

 だってこの人、結局起きなかった挙げ句、眠ったままイッたらしい。

 釣られた瀕死の魚のように微かに震える先輩を見下ろしつつ、イッたばかりのヌルついた先っぽを手のひらで包み、そのままひらに押しつけてヌルヌルと撫でてやる。よしよしいい子いい子。上手にイけて偉いですねぇ。

 じゃあほらもっと頑張って。
 落ち着くまで待ってあげるわけないんですから。むしろ余韻でもう一回。


「ッひ…ぉ、…ぉッ…ぁッ」

「くくく……」

「ぁッ…ぁッ…ぁぁッ…ぁあッ……」


 褒め称えながら容赦なくゴリゴリと膨れたしこりをどつくと、切れ切れの悲鳴をあげてビクッ……! ビクッ……! と小刻みに弾む先輩。

 お、イってるイってる。
 痙攣しっぱ。中キッツ。出すもんないし何回甘イキできるかねぇ。

 しかも本気で起きねーなこれ。
 こんだけ好き勝手してもされるがままで蹴りの一つも飛んでこないとは。


「はッ…はッ…はッ…」


 筋トレの成果で凹凸の見える腹筋がヒクヒクと奇妙な動きを見せ、シーツに横たわる指が空をかいて握りこまれる。

 ピクッ…ピクンッ…と前立腺を掻くたびに痙攣するだけの体。
 頂きから降りようとするたびに快感を与えると、体はその場で足踏みして断続的な高みを繰り返すのだ。

 腹の中を他人に抉られて達するのは、この人にとって慣れたこと。
 条件反射も相まって、意識のない今は余計それを止めることはできない。


「ハァ…ハァ…ッァ゙~~……ッ」


 声自体は、ほんの微かなもの。
 うわ言じみた吐息である。

 されど悦び甘ったれていたそれに苦しげな音が混ざり、微睡んでいた表情に苦悶が浮かび始めた。

 それでもやめない。
 むしろ、これがイイ。

 凛々しい眉が情けなく緩み、眉間にシワが寄り、目じりに涙が滲む。
 熱く火照り汗ばむ体は肌を粟立て、喉がのけ反り、言葉にならないただの音が掠れ果てて空気に溶ける。


「ン…ッ…ンゥ……ッ」

「いやぁ、最高」


 快感に滲む苦悶、が、苦悶に滲む快感、になる瞬間の悲鳴に、自分の胸がゾク……! と興奮したのがわかった。

 あーあ、かわいそうに。
 この人は、苦しむ姿、抗えない姿が最高にたまらない哀れな人なんだよ。


「ぉ、あ、ぁ、ぁ」


 しつこく続けると、呻き声じみた嬌声が、呼吸困難にでもなったように断続的で一定なただの音に変化した。

 あぁ、もう限界? 延々感じて気ぃ抜けないから息するタイミングなくて、そんな声しか出ないっぽいな。

 というかここまでしても起きないってどんだけ睡眠整ってんのかね。
 いやまぁ確かに普段クッソ寝つきいいけど、この状況でも休眠モードって……いろんな意味で怖いわ。


「電車で居眠りして財布スられてそう。今度からよそで寝てたら蹴り起こそ」

「ぁッ…ぁッ…」

「っていう健気な後輩の気も知らないで呑気にあんあん鳴く先輩の図がこちら、ねぇ……くく」


 白いシーツの上に下肢を丸出しにして横たわったまま嬲られ続ける先輩を、気持ち恋情とやらを混ぜつつ、されど無邪気な悪戯心メインで見つめた。

 一応、俺の好きな人。
 意地っ張りで素直じゃなくて頑固で負けず嫌いで飽きないところがイイ。

 だから抵抗もしないし文句も言わず暴れも吠えも反撃も泣きも怒りも強請りもしない先輩なんて、つまらない。

 なのに快感に反応する体力すら奪われて文字通り精も根も尽き果てた汗びっしょりで震えっぱなしの死に体を、舌の付け根の方で〝かわいい〟と思う。

 そもそも基本キレてる先輩がこうなってんのってレアだしね。うん。

 これはそう、貴重だ。
 貴重な光景だと思う。

 となると貴重な光景は──保存すべきだと思うのだ。




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