129 / 454
第四話 後輩たちの言い分
65
しおりを挟む◇ ◇ ◇
「じゃ、俺も帰ります」
「!」
空が赤く染まる夕暮れ時。
散々ごねて遊び倒して帰っていった中都を見送ったあと、三初はそう言って上着を手に取った。
明日は月曜日なのでなにもおかしくはないが、あっさりとした言葉に、俺は思わず肩を震わせる。
別に残念に思ったりしてねぇ。
晩飯も一緒に食べるだろうな、と思っていただけだ。
約束はしていないが普段ならそうで、だいたい泊まった次の日は晩飯を共にしてから別れる。
今晩は中華の気分だとか考えていたのに、なんとなくつまらない。
口がへの字になるが、それはまあいつものことだから、面白くないってのはバレてないと思う。
三初があっさりと帰るのがつまらないのも、恋を自覚した弊害だろう。
恋心はこれだから厄介なのだ。
俺は平静を装って腕を組み、ソファーにドサッ、と腰を下ろした。
大人だからな。スマートに対応してやる。
「オウ。じゃあな。…………。あー……昨日は世話になった。お前、なんか欲しいもんあるか?」
けれどスマートに対応するつもりが名残惜しい気がして、お礼をしようとしていたのにかこつけて会話を振った。
これはその、つい、だ。
意識したわけじゃない。……うん。
上着を着て荷物を持った三初の痛い視線を感じながら、素知らぬ顔でテレビを見る。近づいてくる気配も感じるが全然問題ない。余裕だ。ギシッ、とソファーが軋んだ。
「別に。って言うところですけど、なんかくれるんなら、保留で。考えておきますよ」
「そ、れを言うのに、俺にのしかかる必要性ってなんだよ。オイ」
「別に?」
「なでんな。お前の別にはどこになにを分別してんだっ」
背後からのしかかりつつ腕を回され、俺は一瞬ドキリとしてしまう。
更に頭をポンとなでられ、ついその手を首をひねって避けてしまった。別に嫌じゃねぇよ。嫌じゃねぇから避けちまうんだよチクショウ。
「……はぁ……」
すると三初は深く溜め息を吐いて、俺の頭頂部に顎を置いた。
「ね、先輩。聞きたいことがあるんですけど」
「あ? なんだよ」
「先輩の好きな人って誰ですか」
「ハッ!?」
な、なんでその話知ってんだ……ッ!?
予想外の言葉に、バッと首をひねって無理矢理振り向く。
夕日のせいだと誤魔化すには少し赤すぎる頬を晒し、俺は唇を間抜けに開閉するしかない。
三初はそれをじとーっとした目で見つめ、思考の読めない表情で迎え撃った。
とりあえず、一刻も早く離れやがれ。肘置きにすんな。いかに俺でも心音と体温は誤魔化せねぇんだよ、ちくしょうめ。
「ど、こでそう思ったか、知らねェけどな……そんなもんいねぇわ。仕事と甘味と娯楽少々が俺の恋人だかンな」
「いやあからさまに目を逸らしてますよね。ついさっきド焦りしてましたよね」
「知るかッ、全然記憶にねぇ」
「ほー。先輩、やっぱ記憶力お粗末すぎですねぇ。可哀想に、老化かな? 猫の額ほども脳ミソがないんですか? ん?」
「ンなチクチクトゲトゲした嫌味言ったってよ、知らねぇもんは知らねぇしな。一ミリも俺は好きな男とかいねぇし、惚れた腫れたとか、不得意中の不得意だしなッ」
「は? 好きな人男? アンタノンケじゃなかったワケ? ふざけんなよオイ」
「! い、今のは語弊があンだよッ! 言葉のあやとかそんなんで、そもそもお前に関係ねェし……ッ!」
「関係とかそれこそ関係ないでしょ? 俺が気になることは全て聞く権利があって、先輩には言う義務があるんです。アンタは俺のおもちゃで所有物なんですから、主に不明瞭な報告は許されないワケ。ね?」
「ね? じゃねぇ!」
20
お気に入りに追加
1,390
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる