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第四話 後輩たちの言い分
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しおりを挟む三初の再来に思いっきり驚いた俺だったが、満更でもない自分の本心に従い、恥を偲んで世話になることにした。
名前を呼びながら言うことを聞くからと言っていたのを聞かれてしまったし、こうなったら開き直るしかない。
好きな時に帰れと言ったのが、せめてもの〝好きなだけいてもいいぞ〟である。
いてほしいとは言えないので相手に判断を押しつけたのだ。
しかしながら……三初はずっといるだとか、帰るわけないだとか、ドラマや漫画でこういう時に相手が言いそうなことは、言わなかった。
それだとつまり、様子を見たら気まぐれに帰るのかもしれないってことだろ?
一度戻ってきて再び取り残されることになるのは余計に寒々しい。頭も喉も痛いし、体だって気だるい。
俺は季節の変わり目にしか風邪を引かないが、引くとこうして恐ろしく悪化し毎度高熱になるタイプで、起き上がるのが困難な不調というのにも慣れている。
でもまた置いていかれるのはいやだ。
甘ったれた気持ちから、俺は三初が離れるたびにバレないようにじっと見つめてしまう。もちろんアイツは俺の視線や弱った心は知らないだろう。
だから俺が油断して三初が作ってくれた卵粥をちまちまと食べていると、当人は不意に部屋を出て行ったりする。
その時は水入りのコップに濡らしたティッシュペーパーを入れた、簡易加湿器を作りに行っただけだったが。
俺の部屋に加湿器なんて高尚な文明が発展していないせいである。
自分のぶんの食事をとったりコーヒーを入れたり、洗濯物を取り入れに行ったり、他にもちょこちょこ三初は部屋を出る。
特になにをするやら行き先を言わないものだから、俺はまさか帰るのか? といちいち寂しい気持ちになってしまい気が休まらなかった。
おかげでどこで身につけたのやらやたらに美味い卵粥が、まだお椀半分しか進んでいなかったりする。
無駄に料理がうまいな、コイツ。
ダシが利いてる。ネギもいっぱい。俺はネギが好き。
おわかりのとおり俺の脳は溶けている。
自覚はあるが、しゃんとしない。
俺がモソモソと粥を食べ進めているそばで、三初はスマホで読書をしていた。一応まだ帰る気はないらしい。
それをぼんやりと眺めながら、ガジ、とスプーンを噛む。
数時間も経てば話せるぐらいには気分もマシになったが、こいつは病人のベッドに腰掛けてあまりに自由過ぎやしないだろうか。
リラックスしすぎだろ。
それに機嫌もいい気がする。そんなにヘロヘロの俺の姿がツボに入ったのか?
だとしたら悪魔みたいなやつだ。
けれど看病をしてくれる悪魔である。
「……なに、読んでる」
「んー文芸書ですよ」
「ふん。文芸ってなんだよ。国語のきょーかしょでしか、見たことね」
「ぽいですね。先輩は普段なに読みます?」
「漫画とか、ちょっとだけ。ことわざ辞典」
「あらら、意外。んじゃ好きなことわざは?」
「好きなのは……チョコレート」
「ふっ底抜けのバカだなぁ。それことわざじゃないでしょ。普通にあんたの好きなもんじゃないですか」
ククク、と笑う三初はスマホから視線を外さないまま、俺と片手間に会話を続けていく。失礼なやつだ。
そもそも話しながら読めるのかよ。混ざんねぇのかそれ。俺は本を読んでいると無言だし、周りの音も入らない。
釈然としないままほんの少しスプーンによそって、口の中に粥を入れる。
食欲がないと言っても腹は減っているし、せっかく作ってくれたものだからまぁ、全部食べる。
三初はさっき卵粥の残りを全部、ペロリと食べていた。ついでに今朝のサンドロールの残りでサンドイッチも作って食ってた。体調不良を実感する差だ。
聞けばコイツ、風邪を引くことは俺以上に滅多にないらしい。細胞レベルで鋼鉄製かよ。
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