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第四話 後輩たちの言い分
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しおりを挟む小さく丸くなり、全身を布団の中に埋める。すると外の音は聞こえない。
窓の外の楽しげな声だって、ちっとも耳に入らない。
弱音はこうやって吐くことにしているのだ。子どもの頃からずっと、ここが俺の弱る場所だった。
「あぁ、なんか、寂しい、うう……」
言ったってどうしようもない泣き言。
大人だって寂しくなる。素直に辛いことを吐き出したくもなる。年を重ねるとうまく言えなくなるだけで、辛いことには変わりない。
俺が苦しいことなんか誰も気がつかない。事実中都は気がつかなかっただろ? 途中までは俺も含めて誰も気づかなかったけど、三初だけは気がついたんだ。
でもその三初は俺が帰したから、もう誰も俺がベッドの中でしくしくとしていることなんか、知らないだろう。
大人になったら隠し事ばかりうまくなる。
声をあげる泣き方を忘れる代わりに。
「ゲホッ、ゲホッ」
時間にすると半時間くらいだと思う。
熱で潤んだ瞳から一粒ばかりこぼした頃、ざらついた喉が痛くて、頭が痛くて、なんだかあまりに辛くなった。
ダメだ、辛い。誰か呼ぼうか。それもダメだ。スマホを触る元気もない。
部屋が乾いているせいで余計に咳がキツくて、息をするだけで苦しいんだぜ?
震えた指じゃ文字を打つのも一苦労だ。思考回路がまとまらないのでメッセージの内容は破綻する気さえする。
それに普段あれだけガオガオと噛み付いている気の強い俺が、どんな言い方で〝風邪を引いたが一人じゃ寂しいから部屋に来てくれ〟なんて言えるンだよ。あとで散々笑い話にされるに決まってる。
冬賀なら来てくれるし笑わないとは思うけど、だからこそ迷惑をかけたくない。
お調子者な友人はダメで、まともな友人は迷惑だと思わないからダメ。
つまり結局、俺は誰も呼べない。
誰かに泣きついたことなんか、やっぱり今までなかったのだ。
まるで子どもから成長してねぇ。
問題は意地だけだってのに。
けれど──辛くて寂しくても誰も呼べない俺の口は、最終的に、馬鹿なことを繰り返し口走った。
「ぅぅ…………三初……」
掠れた濁点だらけの小さな声が、なぜか呼ぶ名前。
「三初、ゴホッ、三初ぇ」
アイツが今日気がついた理由なんてどうせたまたまで、本心はよくわからない。
けれど、気づいてくれた。
だから呼ぶ。呼ぶだけならタダだろ。寂しい、とは言えない。
「ゲホッ、う、三初、バカ野郎……」
咳き込む合間にそう言って、なんのつもりなのか。だから風邪なんて大嫌いなんだ。
子どもの頃はベッドの中でも親の名前を呼べなかった。無意識に妹の名前を呼んだ。同じ状況で、俺はいけ好かないアイツを呼ぶ。
昼間、俺の知らない誰かを好きだって言うアイツに、変な気分になったのもきっと熱のせい。試すような、挑むような瞳が忘れられない。呪いだ、チクショウ。
……別に、俺はアイツのこと、嫌いじゃねぇ。
それは、元々。
最近はちっとだけ、妙に気になる。
殺意はたまに沸くけど、それとこれとは別で、普段は俺の口が悪いのとイカレたコミュニケーションというか、本気だけれど本気じゃない、それこそ子どものじゃれあいで。
ええと、つまりどういうことかと言うと、俺は、……期待、してる。
下手くそな気遣い、気づいてくれた。
風邪を引いているのも気づいてくれた。
だからあともう一回、期待してる。
自分勝手でクソみてぇなことだって思うけど、もしかしたらまた誰も気づかない俺の弱いトコロを、見つけてくれるんじゃって思っているんだ。
そんなこと有り得ないからできる期待だけどな。不思議だろ。
髪の毛一本出さずに丸ごと潜って隠れながら絶対バレない状況でだけ、そんな戯言を思って、俺は三初を呼んだ。
「ちゃんとするから、いうこときくから……ゲホ、みはじめぇ」
「──へぇ。言質取りましたからね? 先輩」
「っ……!?」
だけどその呼び声に、まさか返事があるなんて、思ってもみないだろ。
言葉と同時に被っていたものをバサッ! と引き剥がされビクンッと硬直し驚愕に震える涙目で赤くなった俺を、出て行ったはずの三初が、ニンマリと機嫌良さげな笑みを浮かべて見下ろしていた。
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