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第四話 後輩たちの言い分
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しおりを挟む風邪。風邪とは、風邪だ。
たぶん俺の知ってる風邪で合っている。でもまさかそんな、あんまり風邪を引かない俺が急に風邪なんか引くのか?
ポカン、としていると二階ぶんのエスカレーターを下ったので、三初はさっさと俺の手を引き出口へ向かう。
それにフラフラついて行きながら、予想を大いに外れたノーマルな原因に瞬きを繰り返す。
しかも、なんだ……三初の機嫌がまだ若干悪ィな。こいつのほうが風邪引いてんじゃねぇか?
俺は頭が熱くてたまらないことと、少しフラつくことだけである。いや、だんだんゾクゾクしてきて意識がぼんやりとしている、も追加しよう。今きた。
とはいえ急いで帰らなきゃいけないほどじゃない。というか、自覚したらいろいろ折れるから認めねぇ。
「あんな、三初。俺は風邪とかあんま引かねぇタイプなんだよ。実際結構元気だぜ? そこまで苦しくねぇ。いちいち大袈裟に言うな」
「や。もうそういうのいいからさっさと自覚してくれます? そも先輩意外と季節の変わり目で毎年体調崩してますよね? ただ『ちょっとダルいなー』って鈍感、じゃねぇな大バカ精神で気づかず、フラッフラでも出社してくるだけですよね?」
「は? アホか。出社できてンだからそれほど問題ねェだろうが。行くにしても薬飲んで蔓延予防もしてるし。つーかインフルにかかったこともねぇんだぞ俺ァ」
「はぁ……ちょっと黙れ?」
「黙、っ?」
俺が風邪を引くより三初が一服盛る確率のほうが高い。故に物申す。
という簡単なシステムで発言していた俺に、三初はモールから出たところでピタリと足を止め、正面から向きなおった。
「うっ……!」
その顔たるや。
俺かと思うくらいの鋭い眼光と谷レベルの眉間のシワで、リアル大魔王の降臨である。
──三初の感情解釈違い常習犯(三初談)の俺にわかるよう、ご丁寧に怒りを顕にしてくれやがる……!
めちゃくちゃわかりやすく、もっと言うとわざとらしく怒ってくれているのが怖い。
それはつまり〝俺が怒ってるんですから、怒られる側の態度取ってくださいね〟と言うお達しだ。
流石にこれ以上自分の意見を言えず、大魔王三初を前に、俺は黙ってゴクリと唾を飲むしかない。
そして始まるのは、三初の怒涛のお説教タイムである。
「せっかくだから言いますけど、マスクしてたら許されると思わんでね? 仮に対策して他の社員に伝染らないとしても俺の視界の端で真っ赤になりながらフラッフラで仕事する時点で大罪だから。仕事休むのが悪やら大したことないなら出勤すべき根性論やらの風潮は全部古のクソルール。積極的に休んで俺の視界の健康保ってください、ってのも毎年言ってたよな? え?」
「視界って、だからその、あの時はデスクに衝立用意して自主的に隔離をだな……」
「は? そうじゃないんですよそうじゃ。アンタがそんなんだと俺がイキイキからかえないでしょ? 俺のオモチャって自覚あんの? 自覚あんならいつでも最高の反応ができるようにベストな状態を保つよね? 問題はそこ一択なわけで保ててない時点でもう間違ってるんだよ手遅れバカが」
「バ……っ!?」
「だいたいアンタ、昨日濡れた髪のまま寝たでしょ。俺はいつも言ってますよね? 死因風邪になる日が来たら葬式で指さして嘲笑うって。なのに先輩は『あとでやるっつってんだろ』って言っていつも寝落ちじゃないですか。なにかと無頓着なのはいいですけどね、結果風邪の引き始めを人混みで悪化させるなんての、バカの所業過ぎるんで。立場を弁えてください。自己防衛しろ。アンタを犯すのはウイルスじゃなくて俺でしょうが」
「なんでそうな「プリントアウト、百枚でいいですか」俺風邪だ」
間違いねぇ。俺は風邪っぴきの重病人だ。
今すぐ帰って寝ないと悪化して倒れる。面目不甲斐ない自己管理の粗末な大人である。
うすら暗い瞳で俺の痴態ショットをバラまく発言がトドメとなり、俺はコクコクと頷きながら、自分の勘違いと体調不良を心底から認めるハメになった。
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