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第四話 後輩たちの言い分
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しおりを挟むついさっきまで鬱陶しくからかってきていたのに、三初はスイッチが切れたように大人しくなった。
考えごとをしているのだろう。
時折「でもどうしてもいじめたいんだよな……」やら「演技はなんかやだしね……」となにかの脳内会議の結論を呟いている。
やっぱなんか、深刻そうだな。
内容は理解不能だが。野球ってそんな難しいもんだったっけか。
「なぁ、そんなに野球してぇの?」
「あー? あぁ、野球って言ったんだった……」
俺なりに相談に乗ってやろうと声をかけたのに、ボソリと妙なことを言われた。なんだよ野球じゃねぇのか? メンツ足りねぇの? バッテリーと喧嘩してんのか?
「おい三初」
「はいはい。んー……そうですね、野球したいですね。でも相手まずこっち見てませんし、試合になりませんよね」
「なんだそれ。やる気ねぇなら相手変えればいいじゃねぇの? そんなイラつくなら初めから向かってくる相手と試合しろよ。どうせ草野球だろ? 気楽によ」
「や、なに言ってんの。そんなつまんないことしませんよ。チェンジは一番ありえない」
「……お前まさか、マゾか」
「俺はノーマルですが」
「アホか。ガッチガチのサドじゃねぇか」
「マゾ言ったくせに? つか俺サドでもないですし」
「朝から今までの俺への仕打ちをおさらいしてもう一回同じセリフを言ってみろ極悪サディスト」
無自覚ってやつはこうも恐ろしいものなのか。
人の助言を謎理論で否定した三初は、相変わらずサディストの自覚はないらしい。満場一致だろ。いや真性とか見たことねぇけどよ。
「朝の振り返ってって? ……あー……結構尽くしてるつもりなんですけど……その理由って伝わんねーんだ……マジ、壊滅的にタイミングとテンポが合わねぇな……」
「なにが壊滅的だって? なんで更に疲弊してんだ。愚痴ならさっさと吐けよ、吐いたら楽になんぞ」
「取り調べですか? いやぁ~あんた取り調べされる側でしょ」
「誰の顔が犯人顔だコラ!」
なぜか俺と会話をするほど呆れかえる三初に、優しくしようとしたはずがあっさり煽られてしまった。
クソ、こいつ話そらすのうますぎだろ!
「あぁもう、後輩って意味わかんねぇ……!」
こうして〝第二回・先輩らしく後輩の悩みを聞こう計画〟は、第一回と変わらず頓挫してしまった。
お悩み解消以前に話してもらえない俺の口は今、への字にむくれているだろう。
こいつの言う野球に例えると、直球でしか戦えない俺は、変化球しか投げない三初とはキャッチボールが成り立たないのだ。
有り体に言えば、返ってくるボールが俺は取れない。
なので貴重な悩む三初って生き物をどうにかしてやりたいが、結局いつもと変わらない言い合いをしてしまう。
自慢じゃねぇけど、空気を読むという能力はデリカシーと一緒に遥か昔に失ったからな。
少し俺の話をすると、顔や言動だけでなくそういうところもガサツなので、女にはモテないし後輩には怖がられる。
素直であればいいということでもないのが、大人の社会なのだ。
そう考えると、三初は言うことを聞くかは置いておいて、俺を怖がったりしない貴重な後輩である。
それが結構嬉しい。
だからどうにかしてやりたい。
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