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第四話 後輩たちの言い分
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ギャアギャアと騒ぎながら支度をした俺と三初は、遅刻しそうになりながらも、どうにか遅れず約束の時間に間に合う電車に乗ることができた。
いや、遅れかけたのは俺のせいじゃねえ。俺はちゃんと起きたし、結構急いで支度したぜ?
けど三初が「御割先輩」と呼べばたいてい俺を面白おかしくからかい始め、それに構っているうちになんだかんだと時間が経過してしまったのだ。
いつも以上にワガママな三初を思い出し、機嫌を悪くしながらモールの中を歩いていく。
まったく俺の機嫌は悪くなるし、人混みだからか少し暑い気がする。
なんとなく? ってだけだが、冬前だというのに変な感じだ。
普段から鋭い目つきが不機嫌だと当然悪化するので、俺が歩くと向かいからやってくる他の客は流れるように左右に割れた。慣れた。
それでも不機嫌面の俺の隣、飄々とした態度で気ままに歩く三初は、これっぽっちも悪びれていないが。
「三分で終わらせてくださいね。そのあと行きたいところに付き合ってあげますから、俺の買い物にも付き合ってください」
「俺はウルトラヒーローかよッ。つか一連の悪意たっぷりの嫌がらせのあとでよくそんなオネダリできんなッ? ちったァ申し訳なさそうにしろ鬼畜サドッ」
「や、罪悪感がそもそもない。だって俺、自分悪いことしてる自覚ありますし。自覚した上でこれっぽっちも自分の行動を変える気はありませんし。ほら、大人ですから」
「歪みない真っ直ぐなクズだな大魔王め。大人は玄関で盛らねェ!」
「うなじがそこそこうまそうで」
「いやだからってかじんな!?」
「サーセン」
「チクショウ死ね三初……!」
「じゃあ殺していいですよ」
「ふざけんなお前のために犯罪者になってたまるか恥知らず」
「あはは、残念だわ」
ケッ。欠片もそんなこと思ってないくせによく言うぜ。
あみなんで後輩殺すために前科持ちになんなきゃならねえんだ。俺に許可取ってから死ね。そうか意地でも生きて俺に「今まですみませんでした」と謝れ。爆ぜろ。
ムスッと眉間にシワを寄せて大股で進みそんなことを考えると、隣からニヤニヤと愉快げな視線を感じる。
「あンだよ」
「マジで御割先輩って、見た目と違っていいこちゃんですよねぇ」
「誰の見た目が悪い子だコノヤロウ」
ウィィィン、とエスカレーターを上がり肩を並べると、やはり一言余計な発言をされた。「俺は悪い子なんでね?」と笑われ、からかわれたと知り無視する。
最近望まずとも三初の中身がちょっとわかってしまった俺的に、仕事は別として見ると──三初は手を出さなければ、意外と無害だと思う。俺以外にだが。鬼畜暴君め。
ま、基本他人に興味がねぇ野郎だ。
大きな害を及ぼすのは本人的にも悪手だし、なにより面倒くさいらしい。
ドSの暴君でも〝三初だから〟で許される、いや悟られるのは、触らぬ神に祟りなしな方程式だったりする。
自由な行動に物申すと煙に巻かれてむしろ追い詰められるので、周囲はドンドン手出ししなくなるのだ。
放っておけば有能だしな。
まあいつかの昼休みで、コーヒーショップでぶつかってきた挙句絡んできたバカを思いっきり床に這い蹲らせて踏み潰していたから、やっぱり本人の言うとおりコイツはド級の悪い子だ。
……いや? そうでもねぇ、かも?
「なぁんで悩んでんですか」
「あ? どっかの悪ガキが悩むレベルで理解不能なせいだよクソが」
「へぇ、大変だ」
俺の一言を正確に受け取った当事者は、わかった上で他人事のような返事をした。反応したほうが負ける気がする。
なんだかいちいち機嫌を悪くしている俺がいちいちバカみたいだ。
ハァ、と深い溜息を吐き、もう好きにしてくれと放置した。
ただ──そのいつかの昼休み。
(バカに絡まれたのは俺だったのに……三初のほうが、なんでか俺より早くそのバカを捻り倒したんだよなぁ……)
理由不明の珍奇な思い出。
目の前にめんどくさいやつが現れたのが気に食わなかったのか、単に暴れたかっただけか、未だによくわからない謎である。
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