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第三話 概ね普通の先輩後輩
14(side三初)
しおりを挟むだから夕食で機嫌が良くなり油断しているところを、あれよあれよと連れてきた。
泣くまで犯したい、って言ったし。
言えって言うから、仕方なくな?
言えと言われて言ったんだから、当然叶えてくれるに決まっている。そうでないなら言った意味がない。いちいちあんな、アホらしい気分の内訳なんか。
ムス、と不貞腐れる先輩を尻目に、脱いだグレーのジャケットをハンガーにかける。
「ほら先輩もさっさと脱いでください。先シャワー行って。ってかめんどくさいんで一緒でいいですか? ついでに腹にだらしない駄肉がついてないか確認してあげますよ」
「ケダモノかよっ! というかその発言、俺が彼女だったら破局だからなっ? 女は怖ぇぞ」
「過去の彼女は喜んでましたけどね……ま、どっちにしろ脂肪なんか、ついててもついてなくても俺はいたぶるし」
「昔からド鬼畜野郎なお前が怖ぇよ……」
化物を見るような目で俺を見る先輩。
は、俺ってすっごい優しいだろ? 眼球の取り替え時だなぁ。老眼には早いと思うけど、頭はボケてるし妥当かね。
アホだなとは常々思うが、それでも俺に向かって噛みついてくる先輩は馬鹿らしくて、いじらしくて、めんどくさくて、最高だ。
自然に口角が上がる。
特に最近は新しいイイ顔を知ったので、先輩を虐めるのは最早マイブーム。
先輩は渋々黒のジャケットを脱ぎ始めるが、その顔はなにやら不満げである。
バサッ! と乱暴にジャケットを振って、ちょこちょこ俺を睨みつけている。地味なアピールだねぇ。やっぱクソガキ。横目で観察する。
まぁ普通に──御割先輩は、ちっともかわいくない。
寝癖が付いたらなかなか直らない固めの黒い髪に、いつもシワの寄った眉間と、吊り上がったやや太めの眉がデフォルト設定。
黙っていればワイルドな男前だが、地顔が仏頂面で滅多に笑わない上に、目つきが悪くて素で極道系に見える。
百八十超えのタッパと全身に満遍なくついた厚みのある筋肉が拍車をかけ、口を開けば威圧的でかっこいいより怖いがくる。なのでモテない。
中身だって素直じゃないし、意固地だ。
短気ですぐ唸る。
本当はパソコン関連も苦手で、大きい割に意外と綺麗な指を使って四苦八苦と毎日仕事をこなしている。
どんな雑用でも、頼んできた相手には文句ばかりなのに、仕事に文句は言わない。
言葉足らずで態度が悪いのが本人も気にする短所である。
不平不満や異論はあけすけに言い募るから、怖がられていた。だってそういうこと言う時は余計に顔怖いし。
でもそんな先輩を組み敷いて、喘がせて、鳴かせた時の顔。
あれが最高。
全身を赤くして震えながら、涙目で俺の名前を呼ぶことしかできない。
虐めないとこっちを見なかった先輩は、組み伏せてやるとみはじめぇ、と甘えた声で呼び、俺だけを睨みつけてくる。
それを知ってからは、なんとなーく、かわいく見えないこともない。
「……なんでジロジロ見てんだ。……ま、まだ腹はたるんでねぇぞ? 筋トレは週四でしてるし、週二でジム通ってるし」
「へぇ」
一足早く脱ぎ終わったので全裸で腕を組み、壁にもたれかかって先輩の脱衣を眺めていると、言われて気になったのか腹筋を隠して弁明してきた。
ンー……残念ながらまだまだブタになってくれそうにねぇなぁ……。
本人の言葉通りだらしなさは見受けられない体に期待はずれな俺はべ、と舌を出す。
根は真面目だからかね。気持ちいいことには弱いのに、自制心はあるらしい。
「つまんねぇの。シャワー行きましょう」
「は!? ちょ、おま、人に向かってなんつー……! まだ大丈夫だろうがっ」
どう受けとったのやら的外れな勘違いをしている先輩が面白いので、そのまま返事をしないで俺は歩き出した。
しばらくは、ただの駄犬でいいか。
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