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第二話 先輩ワンコの沽券
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しおりを挟む俺が出山車をおりゃおりゃと愛を持ってなで繰り回している間に、冬賀と三初はなにやら目配せをしていた。
移動を待たせてるかと思ったので、出山車を弄るのをやめてやる。
俺と出山車はもちろんこのとおりすこぶる仲がいいが、こいつらも割と仲がいい。
天然お兄ちゃん系の冬賀と、才能の無駄遣い系暴君野郎の三初。
その日に割り振られた仕事は即座に終わらせ纏めて各所にどーん。
資料集めもどこからかき集めてるのか的確。自分用のシステム組んでるとか。
どーんされた同僚たちは毎日ヒイヒイ泣いているが、その背中を物理的に蹴り飛ばして揶揄して働かせる。
そんな暴君は、自分の身内と髪の毛に手出しされなければ懐が深くノリのいい冬賀のことを、珍しく気に入っているらしい。
入社してからずっと教育係でなんやかんやと世話を焼いている俺や幼馴染みである出山車にすら、お前の血ゼッテェ青いだろ、みたいな暴言を吐くのに、冬賀はバカにしないという。
三初は誰とでも喋るが誰にも優しくない。そして俺にだけはピカイチで優しくない。
いやこれよく考えると、どうにも腹の立つ話じゃねぇか?
俺はずっとコイツの世話係でたぶん一番共同作業をしているのに、ケツを掘られる嫌がらせまで受けちまった。
三日連続タンスの角に小指をぶつけろ、ヤリチンクズめ。
……ン? 待てよ?
コイツは「勃ったから」とかいうどうしようもない生理現象を理由に、口うるさい先輩である俺を容赦なく抱ける男だ。
躊躇も迷いも皆無の雑食野郎だ。
ということは、よ。
ウマの合う冬賀になら、俺より早く手を……いや、ち✕こを出していてもおかしくないんじゃねェか?
「…………ヤバくね?」
衝撃の事実に気がついた俺はハッとして、戦々恐々と冬賀のケツを見つめた。
一応大事な腐れ縁のダチだし、ケツの心配ぐらいはするかンな。
しかしながらじっと見てもさっと見ても、アウトなのかセーフなのかがわからない。というか、服の上から見てすぐ新品かどうかわかるかよ。
ノーマルの俺が男の尻の目利きスキルなんか持っていないに決まっているのだ。
こうなったら、仕方ねェ。
ダチの貞操くらいなら俺が守ってやる。
真偽は昼飯食いながらでもさり気なく聞くしかないだろう。
開ケツなんでも鑑定団、的なノリでやりゃなんとかなるか。
「冬賀、飯行くぞ」
「うん? もー腹減ったか? んじゃシュウが腹減ったらしいから行くわ。ミハ、マコ、またなー。あ、今度飲み行こーぜ」
「あーはいはい、いつもんとこですね。リョーカイ」
「奢りですよね! うっひょ~おけです絶対行きま~す!」
「真、お前はまず食堂に行くんだろ? さっさと歩かねぇと蹴るぞ」
「イダッ! も、もう蹴ってるじゃんッ! 割と強めにすぐ足出すじゃんッ! 足癖わっるいんだよなぁもう要のバッ」
「え?」
「ごめんなさい」
冬賀に声をかけるとあっさり話が中断して、三初と出山車はそれぞれ反応を返し歩いていった。
三初に尻を蹴りあげられながらヒイヒイと悲鳴を上げて逃げ出す出山車は、素晴らしい速度で謝罪を入れる。
鬼、じゃねぇ三初は、俺たちに手を振ったあと、カラカラ笑って悠々とそれを追いかけて去っていく。
マジで出山車は悲惨だな。
いつものことだから三初には出山車を大事にしろと何度も言っているが、余計にイジメに拍車が掛かるのだ。謎に。
同じ馴染みの友人でも、冬賀と三初じゃてんで違うわ。
自分の友人がこれでよかったとなんとなくしみじみしながら、俺も冬賀の腕を引っ張り、外に食いに行こうと誘った。
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