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第九話 スパダリ戦争 〜夏〜
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しおりを挟む──その後。
九蔵と三藤はやさぐれモードと化した凌馬と悪魔バレ疑惑に慌てるニューイの元へ行き、空気を読まずに肩ポンをした。
しかたなかろうて。
知らんぷりをするには哀れすぎた。なによりツッコミ不足が深刻である。
ちなみにこれまでの流れを考えると端的に修羅場なのだが、もちろんそうはならなかった。三角関係昼ドラ展開皆無。
肩ポンされた凌馬が、隣の三藤と九蔵の表情から全てバレたと一瞬で悟ったのは流石だろう。
九蔵を見た途端半べそをかきながら悪魔がバレたのだと訴えてカラコロ言っていたニューイとは大違いだ。
自分の恥部がバレた凌馬だが、九蔵に取り繕う気なんてさらさらないため余裕で開き直り、なにがなんでも飲みに行くのだと暴れて手が付けられなかった。
なので必死に「仕事が終わったら飲みに行こう」と宥めすかした結果、鬼の速度で仕事を終わらせた凌馬に連れられ四人で居酒屋に突撃するハメになったのは大きな誤算である。
いや、本当に。
あの惨劇は思い出したくもない。
誰だ? ニューイにジョッキでビールを飲ませたのは。
あの悪魔様はワイン以外の酒類を飲むと自重とかわいげが消え去り、素とオレ様が化学変化を起こして手がつけられないというのに、いつの間にか日本酒をボトルでキープしていた。最悪だ。
言い出しっぺの凌馬はと言うと、こちらも一升瓶片手に升酒をかっくらっていた。
目つきが素人のそれじゃない。
完全にヤのつく世界の重鎮である。
そして極めつけは、絶対に飲むものか! という鉄の意志を持って泥酔イケメン二人の世話に奔走する苦労人の九蔵を捕まえるオッサ、いや上司。
面倒な酔っぱらいたちの相手を九蔵が一人でしてくれるものだから、三藤はコレ幸いと押し付けて上機嫌に酔っ払っていた。
それだけならまだいい。
全くよくないがいい。無害だ。
だが酔った上司の相手というものは森羅万象、保育か介護。
やれこれが食いたいやれこれのおかわりだやれ構ってくれやれ膝に座れと甘ったれる三藤によるウザ絡みダル絡みのオンパレードに邪魔され、ツッコミ過労死寸前の九蔵。
それを見た二人が参戦し、なにがどうしてか〝誰が九蔵を膝に乗せるか論争〟が勃発する始末。
「どんな勝負でも負けるとかありえねぇっつーわけで俺の膝に乗れ? 九蔵。乗ってみろトップアイドルの膝に。その写真トゥイッターにあげたら全ファンから羨望と僻みの対象になれんぜヒャッフゥよかったなぁ!」
「いやいや。そこは上司を立てる的な感じでおじさんのお膝にお乗りよ、九蔵きゅん。んで全部あーんで食べさしてくんね? 食べるのめんどくさいの。あ、あとイカの塩辛追加で」
「く~ぞ~う~? お前が選ぶ膝は俺一択だろ? ん? おいでって言ったらおいで。呪文唱えてほしいならそう言いな?」
──せ、せめて越後が……いやドゥレドがいれば……!
自分よりデカい大人三人に絡まれ畳に倒れ伏す九蔵は、この世界のツッコミをほとんど自分がまかなっていた現実に、そっと絶望したのであった。
とまぁ、結構なハチャメチャを経てすったもんだしたものの、九蔵は無事プレイバックマウスでのアルバイト最終日を迎えた。
現場の人間たちからは全力で「いやだぁぁぁあやめないでくれぇぇぇえッ!」と縋りつかれたが、九蔵はつつがなくスムーズ退職だ。さらば、愉快な職場よ。
嬉しいは嬉しい。
が、本職の店長が怖い。
このままプレイバックマウスで就職するなんて言うと、胸キュンしない系の壁ドンを食らって追い込まれるだろう。
まだ死にたくないのである。
「くっそ~さりげニュっちで釣ってくーにゃん確保しとく作戦が台無しじゃんあの男女店長~! 人間の分際だけどキューヌの獲物には手ぇ出せないしくっそ~!」
「いや聞いてねぇぞそんな計画。就職先なんだから本人の意志を尊重してください」
「チェッ。とりあうまい屋また行くわぁ。暇で死にそうな時間帯狙ってイジるからシフト送っといてね!」
「本人の意志を尊重してください」
スタジオのはじっこドン引き顔の九蔵と、その九蔵の意志を無視して肩を組みウリウリと弄り回すズーズィ。
そんな最終出勤日の九蔵の有り様を凌馬はチラリと見ていたが、なにも言わなかったので多少は認めてもらえたらしい。
サボリだなんだと毒舌を披露されるかと思った九蔵はホッと息を吐く。
中身がアレでも顔がいい。
大好きなイケメン。……に、クソチョロい自分が絆されず、ニューイの好感度を最優先に気にかけてしまうとは。
──ルックス始まりの悪魔だけど……今はそれだけじゃねぇってとこか。
こうしてスーパーアイドルとのスパダリ戦争(水面下)を挟んだ九蔵のアルバイトは、気恥ずかしい自覚を経て、あっけなく終わりを告げたのであった。
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