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第九話 スパダリ戦争 〜夏〜
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しおりを挟む付き合いの長い三藤曰く、凌馬は元々ドン引きレベルの性悪だったという。
人の揚げ足をとることにかけては右に出る者がいない上に弁が立つので言い負かされても責めるに責められれず、責められても相手の悪事や弱みを指摘して言い難いよう引け目を感じさせるため、たいてい謝罪や軽い罰で済ませる。悪ガキのプロだ。
そんな凌馬だが、スーパーアイドルになると決めてから本人が自重する癖をつけて多少マシになった。
ズル賢いこともあり、年を取って大人になるにつれて大人しくもなった。
しかしそれでも少し素が出ると二面性があると怯えられるくらいには性根の悪さも残っていて、それが凌馬のコンプレックスだった。
一応悪ガキだが悪人ではない。
性格が悪い。これに尽きる。
人間関係は損得勘定。
自分以外のオーディションの参加者は全員腹痛で脱糞しろと毎回思う。自分よりイケメン? 潰れろ顔面。
燃やして遊べるくらい金が欲しい。
家は豪華でデカければいいし掃除なんて他人にやらせればいい。
この世の女は全員自分に惚れろと思うし、男は全員自分より下になれと思う。
地位も名誉もあるだけ寄越せ。
自分が世界一自分を高く買っている。
人をからかうのだってクソ楽しい。
大勢の前で辱めると爽快で、もちろん自分はいい子ぶって好感度を上げておくとデトックスになる。加害者になんかなってやらない。逃げ口はあちこち用意しておくものだろう?
凌馬はそんな自分でも大好きだが、好感度商売的に一発アウト。
そして自分の欲望とアイドルとして煌めき続ける野望の間で揺れ動いていた凌馬が、ある日──理想の男と出会ったのだ。
「それがニューイくんです」
「ニューイくんですか」
「イケメンで高身長で金も名誉も野心も全く興味なくてドチャクソ性格のいい根っから善人。内外共にハイパーイケメン。なーのに?キャラ付けでもなく素でド天然のドジっ子。男の嫉妬バスター。アーンド? 唯一無二と豪語するなんの変哲もないフリーター男の恋人アリ。痴情のもつれバスター。モテ男のトラブル鉄壁ガード。凌馬が一番ヘタくそな人間関係コミュニケーション最強無敵のナチュラルスーパーダーリンの降臨」
「なるほど。わかりみが深いです」
「だろ? 大好きだぜありゃあ……だから九蔵きゅん云々ってより、普通に『恋人だろうが関係ねぇよ俺がニューイさんと絡みてぇ時に絡むんだよあと仕事に口出して迷惑かけたらブチ殺すからそのつもりで働けや雑魚が』ってことなんだよなぁ……」
「…………」
「あの子クソガキなんです」
「ソーデスネ」
わかるわけがないとがなった九蔵は、今度はコックリと深く深~く頷く。
ついでに似たようなことを考えていた自分も紛うことなきクソガキで、あんなに遠い存在だと思っていた凌馬が、なんならニューイより至近距離にいるイケメンだと理解した。
……。いやだって、大好きですし。
イケメン過ぎてキレ散らかす時ありますし。好きすぎてもキレ散らかしますし。
対・凌馬にて「スーパーアイドルだろうが関係ねぇわその悪魔様は人生かけて恋してゲットした彼ピなんだよ口出しすんなラブバスター」と歯ぎしりが止まらなかった九蔵の脳内。
煌めくトップアイドルと恋人大好きフリーターのスパダリ戦争。
結果はどうやら──
「よしよし、リョーマ。何度も言うがキミは最高のイケメンである。夜中に飲んだくれて私に電話をかけた時も言っただろう? それに九蔵曰く、すーぱーだーりんが泣きべそをかくのはむしろステータスなのだよ。今のリョーマは胸キュン必至のベストショットさ! 自信を持つのだよ!」
「ドン引き必至に決まってんでしょ心からの善意でアホなフォロー入れんでくださいよ鬼! 悪魔! 人でなしィッ!」
「!? リョ、リョーマ! いつから私が悪魔だと知っていたんだい!?」
「あ゛~マジクソだりィ今日もう仕事したくねぇ飲みに行きましょお冷じゃ酔えねぇわテキーラ持ってこい」
「リョ、リョーマ~っ!」
──自称ポンコツダメっ子悪魔様の勝利で、幕引きらしい。
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