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第九話 スパダリ戦争 〜夏〜
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しおりを挟む「恋人にだけ一番好かれたいとかふざけんなイケメンかよボケェッ! こちとら全国民に預金通帳捧げられたいくらい好かれてぇんだわボケェッ! アイドルってそういう仕事だっつうのにモデルがそういうこと言うなやなんで本気で言ってんだよお狂いかよボケェッ! 俺ら恋人一人に好かれたくらいじゃ生活成り立たねぇはずだろうが石油王パターンじゃない限りィ~~~~ッ!」
シャウトする凌馬がガンッ! ガンッ! とテーブルに額をうちつけ、グラスの水を飲み干してはおかわりを注ぐ。
お冷で見事グッデグデである。
テーブルをバシバシ叩いて身も蓋もない話を愚痴り散らかしてもいる。
アイドルのカケラもない。最早別人……あぁっ、お冷で飲んだくれている! ピッチャーを空ける勢いだぞ!
悲しきかな言ってる内容もよくわかる。
キレ散らかした挙げ句にやさぐれて管を巻くところすら自分に似ている。
頭を抱えて悶絶する九蔵の隣で三藤がゲラゲラと無音で笑っているが、ツッコむ余裕はない。あとで軽くはたいておこう。
だってほら。
──棗 凌馬と言えば?
いつも爽やかスマイルで親しみやすい好感度上位のトップアイドルグループのリーダー。小学生からマダムまですべからく虜にするイケメン。
多才で努力家。アイドルの身でありながら演技に磨きをかけて評価され、現在はファッション業界にも手を伸ばすできる男。
そのニューイがスーパーダーリンだと断言するほど九蔵的にも世間的にもハイレベルな人間である凌馬が。
「あーもうクソ! 洋顔イケメンでクソ高身長で天性の人タラシでポテンシャルの鬼とかクソ! 好き! なのに出世と金と女に興味ナシで恋人溺愛で親しみやすさバリ高とか良さみのバーゲンセールじゃねぇか! 好き! 嫌い! 大好き! クソ! なにより生まれつき善人の極みなとこマジクソリスペクトでもう絶対無理!」
「うむ」
「だいたいそんだけなんでも持っとるイケメンが恋人に男の素人選ぶとかロマンス小説でーすーかーぁ? え? 結果的に一番イケメンやん。一番おいしいやん自分。ハイスペック男が庶民選ぶ~ってそんな夢みてぇなこと実際あるかクソがァ。庶民の中でもド美人か性格超イイか生活にプラスになるやつが選ばれるわいクソがァ。それをいい感じに解釈して人気にするだけじゃい。ってのになんでアンタは男相手にしてんの? イケメンでもなく? フリーターの? なんで? なんでそんなゴリゴリいい子なの? 仕事舐めてんの? 舐められんの? 恋愛優先? んなもんファンタジーじゃねぇかリアルに持ち込むなズルいズルいズルいズルいかっこいいぃぃぃぃッッ!」
「うむうむ」
ごねている。
ものごっついごねている。
ちょっと泣いてもいる。
いや結構ガチめに泣いている。
ポカンとしていた周囲の視線も気にせずクドクドと文句を言う凌馬に、これは見てはいけないものだと察したその場のほぼ全員が、バッ! と視線を逸らす。
全員揃って見なかったフリ。
イエス白昼夢。ノー現実。
なるほど。こうして今までもなかったことにされていたらしい。
そらそうか。表に出ればスクープだ。
凌馬ならそれすらうまく自己プロデュースしてのし上がるだろうが、あのウルトライケメンアイドルがこうだとは知りたくなかった。
ファンとしてはこの姿すら愛したいところである。ちょっと時間は必要である。
そうして一周まわって妙に冷静に考察しながら凌馬を見つめる九蔵の肩を、唯一知っていただろう男がポン、と叩いた。
「棗 凌馬」
「…………」
「頭と面とスタイル抜群のトップアイドルグループリーダー。自己プロデュースの鬼。もともと多才でありながら努力を怠らない向上心の塊。なにをやらせても人並み以上の結果を出す腐れイケメン」
「…………」
「そんなお前さんら曰くスーパーダーリンの素質アリなアイツの唯一にして最大の欠点は、性格がクッッッッソ悪いことです」
「…………」
「で、それが本人の最大コンプレックスだから、性格がクッッッッソ良い生まれつきのド善人なニューイに嫉妬、尊敬、羨望、その他愛だの恋だの以外の感情を抱いて、どちゃんこ憧れてるらしい。ただ表し方があの通り駄々っ子」
「…………」
「な? クソガキだって言ったろ?」
「いやわかるかーい」
わかってたまるかーい。
九蔵は二度念押しした。いやだってわかるわけねぇだろがい。おっと三度目。
ちなみに口癖はクソ。たまにう〇こ。
神が美しさのステータスポイントをビジュアルに全振りしたようだ。アーメン。
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