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第九話 スパダリ戦争 〜夏〜
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しおりを挟む流石だいたいなんでもできる男。
爆笑の波から復活した三藤と九蔵は、揃ってサイレント拍手を送る。
しかし完全敗北したくせに納得がいかない様子のニューイは「だがそうとは限らないというか……」とモニョモニョ抗議した。
諦め悪く煮え切らない。
こちらは流石、年季の入った自称他称共に泣き虫毛虫のダメっ子である。
「えぇ? まだっ?」
「だってそうである! リョーマに恋していなかったとしても、九蔵が私よりリョーマをかっこいいと思っている可能性は大いにあるというか……むしろ高いと言うか……っ! 実は私は役たたずなのだよリョーマ~っ!」
「えぇ~……? あ~も~……なぁんでニューイさんはそんなに自分に自信がないんですかねっ?」
「ぅむっ?」
そうしてべそそっと涙目になるニューイを前に呆れ返った凌馬が、ふと、息を吐くようにわはっと笑った。
ニューイがキョトーンとする。
けれど構わず腕を組み、凌馬は心做しかふんぞり返って足を組みかえる。
そんな所作だけで雰囲気が変わった。
ほんの微かなものだが、爽やかで親しみやすい好青年から抜け目のない色男へ。
「だぁっておかしいじゃねぇの~。イケメンだし背ぇ高ぇしスタイルいいし性格いいし一般人の同性の恋人がいてそれを隠しもしねぇでラブラブしてて、イイ男要素なんでも持ってるんすよ? それで自信喪失する理由とか、俺には皆目検討つきませんて! マジで」
「う、うーむ」
出た。凌馬の悪い癖。
変わったと思った直後にジャブを放った凌馬へ、聞き耳を立てる九蔵はウギャッ! と内心額を抱えて口角を引き攣らせた。
ニューイを試すようにトゲのついた言い方をして片眉を上げる。挑発している。
ただ少し、どうしてか、困っているような気配も感じた。
呆れているのか?
別の感情もある気がする。
三藤を見つめると、肩をすくめて意味深に口元を緩められる。黙って聞いてろと?
全部知っているくせに怠惰でとことん説明を省きたがるダメな大人め。これを教えるために連れ込んだはずなのに。
だが、九蔵が読めない凌馬の内側。
ニューイへ向ける感情の理由が、きっとそこにあるのだろう。
「理由か……」
──ニューイはわかるのだろうか。
九蔵はごくりと生唾を飲んだ。
意味なんてない。
仄かにセンチでシリアスな雰囲気をまとっている凌馬だって同じ。
しかしそんな空気など全く読めない天然ポンコツ悪魔様は、至極真剣な表情で腕を組み──口を開いた。
「すぱだりを目指しているからさ」
「…………」
「…………」
「…………」
出た。ニューイのお家芸。
パキーンとフリーズする凌馬を目視し、九蔵と三藤はそっと合掌した。
申し訳ないがうちの悪魔様はシリアスブレイカーである。悪気はない。そういう子なのだ。許してほしい。
ニューイのそれじゃない発言には慣れているので、ここぞという場面で話がズレた凌馬を心から憐れむ九蔵と三藤。
なお恋人の九蔵でも翻訳できない。
なぜここであのスパダリ願望が出てきたのやら。皆目見当もつかない。
頑張れトップアイドル。
負けるなトップアイドル。
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