414 / 462
第九話 スパダリ戦争 〜夏〜
22
しおりを挟む◇ ◇ ◇
出勤日がやってきた。
もう言わずもがな相変わらずの光景で、九蔵はムッスと不機嫌を燻ぶらせつつ、テキパキと働く。
ニューイは九蔵に構わないようにしているのでことさら控えめだ。
控えるイコール、空いた時間は九蔵以外に埋められる。
悲しきかな、ニューイとヤキモチは縁遠い。両想いなら不安はないと。シャイニングワンコとの温度差め。
仕事の面では問題ない。
むしろ凌馬へのジェラシーを燃料に燃え上がり、鬱憤の数だけよく働いた。
怒涛の勢いで働く九蔵にスタッフたちがおお~と拍手を送るほどだ。
それどころじゃない九蔵にはその賞賛も届いていないのだが。
そうして今日も今日とて午前中を終わらせた九蔵が、ランチタイムをどうしてくれようかと考えていた時。
「へいアルバイター」
やる気のない怠惰なおっさんの声が聞こえたかと思うと、背後からガシッ! と肩に腕を回された。
九蔵の目から光が消える。
声と態度とその他諸々、犯人は誰だかわかっていた。
確かに磨けば光るが、磨いていない今はただの中年だぞ、と。
「なんでしょうか、監督」
「なんでしょうかはこっちのセリフって感じ? ほら、おじさん一応現場監督だから、スタッフのパフォーマンス管理もおじさんのお仕事なの」
「はぁ。自己管理してください」
「お前俺にだけ辛辣だよな」
なんだその気の抜けた返事は、と頬を引きつらせる三藤に、九蔵は同じ返事をした。
辛辣なのではない。
三藤の好感度が初期値から上がっていないだけである。九蔵は好感度補正の男。
そこのところをわかっていない三藤がなんでいなんでいと拗ねるので、抱かれた肩をすくめる九蔵は下手くそな愛想笑いを浮かべておいた。ドン引きされた。コノヤロウ。
「あー……もうわからないことがわかったんで、用事を早く言ってくれませんか」
「え~」
「え~じゃないですよ」
「つっても、あんま気にすんなよって言いに来ただけだけどな」
「なにがですか」
「ほら、凌馬は手強いだろ?」
「…………」
途端、九蔵はピタ、と黙り込んだ。
ちょっと待て。
なぜ自分がやきもきしていて、その理由が凌馬だとバレているんだ。
というかどこまで知っているのやら。
プロの習性で表情は変わらないものの、九蔵は思考回路に合わせてタラタラと冷や汗を流す。
表向きは何事もなかったはずなのでもしかして凌馬の態度かとも思ったが、態度は変わらないし相手は演技派である。
数多のイケメンを鑑賞してきた九蔵は、凌馬が演技に定評があるイケメンだと知っていた。有り得ない。
「あー……まぁ、人気アイドルは強かじゃないと務まりませんしね」
「おーおー。それと俺になんの関係が? 的な顔してっけど、九蔵くんがイケメン大好きって知ってる俺にゃ凌馬チラ見しすぎのくせに不機嫌顔でバレよ。諦めろ」
「…………」
「そしてなによりお前のこと気にかけるように嫁から言われてる俺の気持ちを考えろ」
うまい屋で一番優しさに溢れている夕奈を娶った三藤の言葉に、九蔵は無言で両手を軽く上げた。
お手上げポーズ。
三藤は呑気にワハッ! と笑う。笑いこっちゃねぇ。
10
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
都合の良いすれ違い
7ズ
BL
冒険者ギルドには、日夜依頼が舞い込んでくる。その中で難易度の高い依頼はずっと掲示板に残っている。規定の期間内に誰も達成できない依頼は、期限切れとなり掲示板から無くなる。
しかし、高難易度の依頼は国に被害が及ぶ物も多く重要度も高い。ただ取り下げるだけでは問題は片付かない。
そういった残り物を一掃する『掃討人』を冒険者ギルドは最低でも一名所属させている。
メルデンディア王国の掃討人・スレーブはとある悪魔と交わした契約の対価の為に大金を稼いでいる。
足りない分は身体を求められる。
悪魔は知らない。
スレーブにとってその補填行為が心の慰めになっている事を。
ーーーーーーーーーーーーー
心すれ違う人間と悪魔の異種間BL
美形の万能悪魔×歴戦の中年拳闘士
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。※
朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!
渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた!
しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!!
至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
僕の心臓まで、62.1マイル
野良風(のらふ)
BL
国民的女優と元俳優の政治家を両親に持つ、モデル兼俳優の能見蓮。
抜群のルックスを活かし芸能界で活躍する一方、自身の才能に不安を抱く日々。
そんな蓮に、人気バンドRidiculousのMV出演という仕事が決まる。
しかし、顔合わせで出会ったメンバーの佐井賀大和から、理由も分からない敵意を向けられる。蓮も大和に対して、大きくマイナスな感情を持つ。MVの撮影開始が目前に迫ったある夜、蓮はクラブで絡まれているところを偶然大和に助けられる。その時に弱みを握られてしまい、大和に脅されることになりーー。
不穏なあらすじとは裏腹な、ラブ&コメディ&推し活なお話です。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる