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第八話 あっちこっちトラベル

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 べそべそべそべそとしとどに涙を滴らせながら、九蔵の首筋の匂いを嗅ぎまくるニューイ。目を回す九蔵には気づいていない。

 扉の前で待機する澄央がアーメンと十字を切り、それを見たビルティが薄ら笑いを浮かべたまま合掌する。
 もう一度言おう。薄情者たちめ!


「ココさん、愛されてるスね」

「黒ウサギ、アリス大好き」

「九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵」

「愛、てか、執念、が、グフッ……!」


 ──その後、九蔵が解放されるまでしばらくかかった。

 悪魔王の粋な計らいで廊下は誰も通らなかったが、九蔵はわけもわからずニューイに抱きしめられて満身創痍である。

 一人で二週間ニューイの帰りを待っていた間は、たぶん自分のほうが寂しがっているんだろうなー、なんて考えていた九蔵。 

 蓋を開けてみれば、ニューイのほうが大崩壊していた。

 まぁ、感情論は目の当たりにしなければ実感できないことだ。複雑骨折が瓦礫で済んでよかったと思う。

 このままでは砂粒になって修復不可能になっていたかもしれない。


「ふぅ……とりあえずお久しぶりの挨拶は置いておいて、まずトラブル解消しようと思うんだけど、ニューイはどこまで知ってんだ?」

「全部である。ドゥレドからメッセージが来て、飛び出そうとした私の首根っこをひっ捕まえた悪魔王様が、説明してくれたのだ。私も遊戯室の歪みを整えるとも!」


 どうにかこうにかひと段落したので話を切り出すと、ニューイは心得た様子でドンと胸を叩いた。

 メンタルが落ち着いているので、飛び出た尻尾も翼も引っ込んでいる。

 頼もしいイケメンさんに、澄央とビルティもそろって拍手を送り、ニューイを称えた。ニューイは誇らしげだ。


「流石俺の盟友ス」

「流石黒ウサギ」

「フフフよせやい照れるじゃないか」

「でも、ニューイは人間の世界のオーソドックスな物語やらゲームやらって知ってるんスか? 悪魔の王様が集めたカケラはそういうものなんスよね」

「クク、そう。黒ウサギ悪魔。カケラ知ってる?」

「そこは平気なのだ。友人がいない私は、一時期遊戯室に入り浸っていたからね! イチルと暮らしていた時もカケラをレンタルして取り寄せ、屋敷の扉に移植して遊んでいたこともある。いくらかは覚えているぞ!」

「ワーオ。切なすぎる思い出のアルバム」

「お涙チョーダイ」

「なぜ!?」

(ふむ……これは、やはり……)


 そうしてわちゃつく三人を密かに見つめる九蔵は、キュピン、となにやらお察ししていた。

 乙女ゲームで散々ヒロインという名の第三者の恋をクリアしてきた九蔵の勘では、なんとなくビルティが澄央の真似をしているような気がしたのだ。

 チラチラと視線を向けているし、ニューイもお気に入りのはずなのに澄央の隣から動かない。

 本人も澄央が好きだと言っていた。実際懐いているし、オムライスを食べてもらえて喜んでもいた。ということは……これはやはり、恋やら愛やら由来なのだろうか?


「いや、一概にそうとは言えんよな……」

「? なにが?」

「……ゴホン。ビルティくんはナスくんに恋をしていますか、って話です」

「恋? 恋。独り占め。クク、いいなそれ。オレそれする。ナスに」

「おっと解決」


 そんなあっさり恋を認めるなんて正気か。
 サクッと認めるビルティに、散々認めまいとした自分のビビリを実感した九蔵は、思いがけずダメージを受けた。

 ビルティはニョロニョロと澄央の元へ戻っていく。まぁいい。確証を得たなら、協力しよう。

 それに、ビルティに協力することは澄央にもいい影響があるはずだ。

 澄央は一見するとコミュ力が高く一夜の相手も簡単に見つかるが、誰かと恋愛関係になるとなると、途端に慎重になる男だ。

 けれど、けっして恋人がほしくないわけじゃない。そうぼやいていたことが実際あった。

 ならばいっそ人外を試してみれば、澄央が気にかけるなにかをあまり気にしなくていい可能性もあるはず。自分が実際そうだったからだ。

 ただまぁ、これは少し……いや結構、自分勝手なアシスト。ともすればお節介になる。

 九蔵はウンウンと唸り、和やかにトークする三人を前に一人苦悩した。だが一人でいくら悩んでいても仕方がない。

 そうして唸る九蔵がふと思い出したのは、いつぞやのダブルデート(偽)だった。

 ニューイに片想いしていた九蔵に澄央とズーズィが入れてくれたフレンドアシストを、今こそ自分が入れるべきなのでは。


「……皆の衆」

「「「ん?」」」

「せっかく四人いるわけだし、ここは効率よく物理担当人外と物語訂正担当人間……二人一組で行きませんか?」


 ──すなわち、作戦名〝二人きりにしてやるから存分にイチャつくがよい!〟を発動すべきであろう……!

 そんなこんなで、暫定ダブルデート(仮)。
 現実はトラブルシューティングの開幕。

 しかしあとになってこのメンツのツッコミが自分しかいなかったことに気がついた九蔵は、ツッコミのいないマイペース組の珍道中を想像し、頭を抱えるのであった。




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