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第七話 男たちのヒ・ミ・ツ
08(sideニューイ)
しおりを挟む無言タイムが明けてからも九蔵はわかりやすいくらい話題を変えた挙げ句、話題が尽きればまたガン無視する。
ニューイは九蔵九蔵と子犬がごとく着いて歩いたと言うのに、最後にはピシャンッ! と洗面所のドアを閉めてしまった。
そう。愛しの恋人は本当に一緒にお風呂に入ってくれなかったのである。
──あんまりだ!
以来、ニューイは拗ねた。
そして宥めど宥めど拗ねるニューイに、九蔵もへそを曲げた。
ニューイは構って欲しくて。九蔵は嫌なもんは嫌だと言ううちに引っ込みがつかなくなり、収束するタイミングを逃して。
プラス、お互いに不満。
一応それでも不安にはならない。
喧嘩をしてもベットでは背中を向けずピトリと体のサイドをくっつけたまま眠ったので、お互い相手に嫌われたわけじゃないことは察している。
けれどなかったことにするには付き合いが長くなりつつあり、またお互いの性格なども理解しつつあった。
長くなるので詳細は省くが、兎にも角にも、男たちには譲れないプライドと明かせないヒミツがあり……それはたいていクソ拗れるということなのである。
へそを曲げたままのニューイは、こんがり焼けたチーズトーストとスープを持ってテーブルに向かった。
「お待たせである、九蔵」
「全然。ありがとさん」
「どういたしましてくん」
「はい。いただきますです」
「いただきますです」
いつも通り二人で手を合わせる。
表沙汰にしない程度には、おおむね大人なのだ。二人とも。こう見えて。
しかし食事が始まると無言になった。
普段はたいていニューイが九蔵に話しかける。それは拗ねていようが関係ない。悪魔様は九蔵さんとお話がしたい。
けれど今朝は、うっかり話し始めるのを忘れていたニューイ。
そこには他意などなかったのだが。
「……。まだ拗ねてるんですか」
「む」
九蔵は、ニューイがまだ自分を許していないので会話したくないのだろう、と受け取ったらしい。
ジトッとした視線をニューイへ向けながら唇をとがらせる九蔵を、ニューイはチーズトーストを咀嚼しつつキョトンと見つめ返す。
ふむふむなるほど。
九蔵の勘違いがニューイにはすぐにわかった。
わかったが、呆れたような、責めるような語気の九蔵の感情を読み取ると「あの程度のことですぜ?」と言われていたので、ニューイはやはり唇をとがらせ返す。
「拗ねているとも」
「はぁ……」
このタイミングのため息。
相変わらずコミュニケーション下手だ。
ご機嫌ナナメな恋人相手にはアウトなため息だとニューイはわかるが、九蔵に悪気はない。九蔵はめんどくさがっているわけじゃなく、ただ困っているだけである。
要は理解できないらしい。
つまり九蔵はニューイとお風呂に入りたくならないということなので、それはそれで寂しいニューイ。
「逆に聞くが、どうして九蔵は私とバスタイムやお触りが嫌なんだい?」
「それはまぁ、個人的な問題で……」
「是非聞かせてもらいたい問題だね」
「是非聞かせられない問題ですね」
「九蔵の問題は私の問題だぞ。それとも私が頼りにならないということかい?」
「そうじゃねーけど、頼るかどうかに関してはお前さんも俺を頼ったりしねーだろ? 気になるならニューイも包み隠さず明かした上で、俺を頼りにするべきだぜ」
「うぬぬ……どの話かはわからないが、九蔵を頼ることが難しい場合もあるだろう? 私にだって男のプライドがあるのだ」
「なら俺だって男のプライドがある」
「そのプライドがお触り禁止とどう関係しているのか言ってほしい私だよ」
「それで言えるなら男のプライド問題じゃねーでしょうて」
「むぅ。おっしゃる通り」
「じゃあもう拗ねんのやめて」
「一切触れないと約束する私と今夜お風呂に入ってくれるのならね」
「勘弁してください」
「残念だよ」
モグモグと食事をしつつジャブを放ちまくった結果に、ニューイは肩をすくめた。
頑なにお触りを諦めないニューイに、もそもそと窘めていた九蔵もムッとする。
「子どもみたいなこと言うな」
「大人だから言うのであーる」
「大人はそんなこと言わないだろ」
「いーや。大人だって子どもだったのだから言うのであーる」
「入浴魔め」
「ドンとこいっ」
「セクハラ悪魔様」
「! そ、それは流石に酷いぞ! 私はこのままキミを抱き抱えてバスルームに運んだっていいのだよっ?」
「! 困るって言ったでしょーがっ」
「困る九蔵も愛しているから平気さ!」
「困らせてるお前さんでも嫌いにならないとか俺さんは言わねーですよ!」
──そんなこんなでヒートアップ。
ニューイと九蔵の言い合いは、ドガッ! と隣から盛大な壁ドンによるピリオドを打たれるまで続いたのであった。
悪魔と人間の痴話喧嘩。
エクソシストに筒抜けなのだ。
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