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第七話 男たちのヒ・ミ・ツ

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 ドゥレドは理解できないとがなる。
 九蔵はポリポリと頬を掻く。

 巨漢の悪魔王に近づくために筋トレを始めた結果ハマったらしいドゥレドには、ニューイを愛する九蔵が愛のためにワガママッスルボディを目指さない意味がわからないらしい。

 愛のために努力すべき。
 そう言われると辛いぞ。

 けれどニューイの場合はムキムキな九蔵が好きなわけではないので、そこはスルーさせてもらおう。


(……ニューイがマッチョ好きって言い始めたらちょっと考えますけども)

「とにかく、俺はパーフェクト・マッスルは目指してねーんだ」

「じゃあ前のクソガリガリ骨皮男に戻りたいのか? アバラが浮くのは筋肉がなくて肉が重力で腹に行くからだぞ」

「そうでしょうとも。アバラは今も浮いてますよ。なのに贅肉もござる不思議ボディな。故にガリガリには戻りません」

「フンッ! 痩身なんてナンセンス。健康的に美しい身体を鍛えるべきだ。世の女は狂っている。昔オレが契約した王の妻や愛人は、みんな血を抜いてまで美肌を目指し、骨を抜いてまでスリムになりたがっていた。死ねばスリムになるのだから、生きている間は肉を大事に鍛え上げればいいのだ。それをあのバカどもは……ッ!」

「お前さんはダイエッターさんたちに故郷の村でも焼かれたのかい」


 思い出しては燃え盛るドゥレドに、九蔵は一歩距離を取った。

 逃げるなと追いかけられる。
 逃げる九蔵。

 数秒追いかけっこをしてから、所定の位置に戻る。


「で? 痩せたいわけでもマッチョになりたいわけでもないお前は、いったいなにになりたいんだ?」

「ノーマル筋肉男です。……このみすぼらしさとたるみのハイブリッドボディを、人様に見せられるくらいの人並みボディに鍛えたいです」

「ん~?」


 ドゥレドからなにが楽しいんだ? と言わんばかりの視線を浴びた九蔵は、声をひそめてキュッと肩を竦めた。

 マッチョなドゥレドには、筋トレやらプロテインやらと付き合ったことが一切ない初心者の気持ちなんてわかるまい。

 メリットがあることなんてわかっている。しかしなんせ、初めまして筋トレさん。

 九蔵はどこから手を付けていいかすらもわからず、しばらくは自分で頑張ったものの早々に方向転換だ。

 変なクセがつかないうちに、詳しそうな人に教えてもらおう。

 よって、ドゥレドとトーク。
 さり気なーく深刻な相談をしている。

 具体的な希望はこうだ。

 自分の体力でできる負荷のもので、今の生活に無理なく取り入れられるメニューを知りたい。あとはそれをこちらで頑張る。

 気になるお腹のお肉を撃退できればよし。浮いたあばらをコーティングできればなおよし。

 こらそこ。「やっぱり腹肉気にしてんじゃねーか」とか言うな。
 こちとらリアルガチだぞ。

 なんせなにやら悪魔系彼氏が夜な夜な自己研鑽に勤しんでいるのだから、こちらも頼りがいのためにプロポーションを整えねば。

 筋トレを愛するドゥレドからすると筋肉を欲しているのに本気ではやりたくない九蔵の希望は弱気に見えるだろうが、たいていの筋肉希望者の筋トレしたい願望はこんなものだ。

 九蔵はニューイにええかっこをしたい。プラス、見られて変に思われないボディでいたい。

 世の皆さまはムキムキになりたくて筋トレをしたいわけじゃなく、問題が解決する程度の筋肉をゲットしたいだけなのである。


「そこのところ、ご面倒な性質であること重々承知いたしておりますが、何卒よろしくお願いいたします」

「どこのところだ」


 一切ブレていなかった九蔵の脳内の覚悟が全く通じていないままよろしくされたドゥレドは、頭上にクエスチョンマークを飛ばすのであった。




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