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第七話 男たちのヒ・ミ・ツ

01(sideニューイ)

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 悪魔であるニューイは、実のところ眠らない。睡眠や食事は娯楽だ。

 ニューイにとっては九蔵と約束した〝九蔵の部屋に居候する代わりに人間生活をマスターする〟というミッションであった。

 故に九蔵が夜勤でいない日もニューイはきちんと晩ご飯を食べて歯を磨き、最近覚えたシャワーを浴びて冷たいセミダブルベッドに入る。

 人間生活のお供は、ズーズィに貰ったフレグランスランプに、澄央に貰った九蔵とお揃いのどんぶり茶碗。

 どちらもクリスマスプレゼントだ。
 素敵な友人を持ってニューイは幸せである。九蔵がいない時も、密かに二人とはよく遊んだり食事をしている。

 そんなニューイだが、九蔵が眠っている夜中にこっそり悪魔の世界へ赴き、自分の屋敷へ帰ることもあった。

 たいていはイチルの月命日。
 後は資産の換金だ。──しかし。

 客間にて待つ今夜のニューイの目的は、そのどちらでもなかった。


『…………』


 九蔵や気の置けない友人であるズーズィ、澄央といる時とは違う真面目な表情で、質のいいロココ調のソファーに座るニューイ。

 表情と言っても悪魔の姿なので、ただの角あり骸骨である。

 ほどなくしてドアベルが「ガランゴローン」と鳴いた。悪魔のドアベルは壁から生えた鳥だ。


『待たせたな』

『うむ。問題ないのだよ』


 やってきたのは、クマさん悪魔。
 またの名を、ドゥレド。

 巨大鱗クマさんなドゥレドは、カラコロと首を振るニューイの隣にもすんと座り、同じく真面目な顔でニューイを見た。


『例のものは?』

『抜かりなくここに』


 ニューイはスッ、と懐からそれなりサイズのゲーム機を取り出す。


『九蔵のスモッチだ』

『なるほど。美品だな』


 ニューイはコックリ頷いた。

 ──ネンテンドー・スモッチ。
 それは本体にコントローラーが二つついた、携帯機兼据え置き機の便利なあんちくしょう。

 新発売された時はウキウキと購入した九蔵だが、実はほとんど使っていない。

 のちに一人用のライトバージョンが発売され、共にゲームをする相手がいなかった九蔵はライトバージョンを買い直したからだ。

 九蔵はフリマアプリに出したかったのだが、結局は出していなかった。

 連絡不精な九蔵は、他人とやり取りすることが面倒、ビビる、失礼がないかソワソワするなどの理由で、大の苦手である。

 そういうことだ。
 お察ししよう。

 なんにせよ、ニューイはクローゼットのこやしになっていたスモッチを勝手に持ち出したらしい。


『くれぐれも傷つけないようにね』


 頷いたドゥレドは、懐からスッ、となにかを取り出し差し出した。


『スーパーマルオブラザーズのソフトだ』

『ふむ。確かに』


 ──スーパーマルオブラザーズ。
 マルオとマルイージという配管工ブラザーズを操り、大亀の魔王に囚われた姫を救い出す奥の深いゲームである。

 そしてまたの名を、ニューイの天敵。
 またの名を、悪魔王様のイチオシ作品。

 ニューイがカチンッ! と指を鳴らすと、すぐ目の前に大スクリーンが現れた。

 ニューイとドゥレドは揃っていそいそとスモッチをスクリーンに繋ぎ、真剣な面持ちでコントローラーを握る。


『目指せ全ステージクリア!』

『目指せ魅惑のエンドロール!』

『『全ては愛しの彼のためにッ!』』


 ユニゾンした悪魔二人はカッ! と目を見開き、秘密の特訓を開始するのであった。

 優等生と劣等生。
 当悪魔たちは全力で否定するのだろうが、恋の仕方がクリソツコンビ。なんやかんやで、似た者同士。

 ──余談だが、ゲームの秘密特訓に限らず、ズーズィを講師に招いて家事教室・人間世界の勉強会パターンもあった。

 ちなみにキューヌも参加する。
 悪魔はこうして人間との出会いをきっかけに、いつの時代も人間の世界の知識と常識を身に着けてきたのである。




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