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第五話 クリスマス・ボンバイエ

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  ◇ ◇ ◇


 そんなわけでクリスマス・イブのパーティーの裏。
 九蔵とニューイが悪魔城にて二人きりの淫靡な時間を過ごしたあと。

 まぁ、当たり前だが──


「……朝、ですね」

「うむ。朝の七時である。おはようマイスウィートプリンセス九蔵」

「ご機嫌ですね、ニューイさん」


 ──ブラックアウトからの、いつもの部屋のいつものベッドで朝チュンエンドだった。

 秒で状況を理解しベッドにうつ伏せたまま呟く九蔵の隣で、満面の笑みを浮かべてテンアゲな全裸のニューイが「いかにも!」と九蔵の髪にキスをする。

 カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされて、九蔵ははぁ……とため息を吐いた。

 焦らしプレイと快楽責めが十八番なニューイが一時間で満足させようとすると、残った快楽責めだけが全開で襲うのは必然だろう。

 頭がバカになった九蔵は、際限なくもっともっとと求めてやまない。

 そしてニューイは、九蔵のオネダリに敗北しかしない。
 ならば九蔵を感じさせて意識を刈り取ることで、無理矢理強制終了させるはず。

 ということは──強制魂イキループに陥った九蔵がトンでいたせいでパーティーには戻れず、クリスマス・イブは終わってしまったということだ。


「俺、全く起きなかったのな……!」

「うむ!」


 説明されなくても理解できる器用な九蔵の呟きに、ニューイは笑顔で頷いた。

 頑張って起こそうとはしたらしい。
 しかし体力ゲージが枯渇して眠った時の九蔵は、思いっきり寝ぼける。

 仕方がないのでニューイは九蔵を抱き抱え、ちょうどパーティーが終わった澄央とズーズィと合流して帰宅したとのことだ。


「つまりナスとズーズィに見られたな、お見苦しいボディー……あー死にたい……」

「フフ、昨夜の九蔵は殊更愛らしかったぞ? 私を求めて魂を……あぁ困った、愛しさが溢れて爆発しそうだ。急いでそのかわいい唇にキスをさせてほしいのであるっ」

「テンション上がってんのはわかるけども、俺さんはちょいとムシになりますのでお黙りくださいませ……」

「ク、クゥーン」


 九蔵にシャラップと言われ、ニューイはしょんもりとしょげた。

 それでも九蔵は枕に顔を埋めたまま屍と化す。復活の兆しは皆無だ。


「九蔵、どうしてムシになるのかな?」

「……思い出し処刑中だからです……」

「防御形態なのかい?」

「……必殺技ですかね……」

「誰を必殺するんだい?」

「……俺ですね……殺してください……」

「悪魔にだって不可能はあるのだ」


 そう言われても、九蔵はやはり顔をあげずに自己嫌悪タイムに入った。

 ニューイ的には余韻でハートを飛ばしてイチャイチャしたくなるほど愛に溢れた時間だったのだろう。

 しかし九蔵は羞恥心が木っ端微塵である。
 そして、よせばいいのに自己採点。


(つか思い出したら俺やばくねぇか? パーティー隅っこに逃げて迷子になって客室でセックスして気絶オチだろ? ニューイに限らずナスにもズーズィにも後半のアレそれで悪魔王様にも迷惑かけた気が……)

「おへ~~……っ」

「あぁっ、最終形態にっ!」


 九蔵はにっちもさっちもいかなくなり、いわゆるごめん寝の姿でキュ、と丸くなってプルプルと震えた。

 ニューイが一生懸命持ち直させようとするが、九蔵はテコでも顔をあげない。

 驚くなかれ。
 割と昔からこうである。

 インドアコミュ障の九蔵は友人知人他人とウキウキ楽しく関わって寝て起きると、基本的に死にたくなるのだ。

 我に返って「あれ、俺なにハシャいんでんだろ。キモくね? 死のう」と、謎の方程式で勝手に地面へめり込む。

 そして全力で距離を取る。
 はしゃがないよう戒める。
 なんともめんどくさい大人だ。

 一晩遡って友人からのクリスマスプレゼントに照れ、恋人とラブラブだった記憶を確認し直せばいいものを。

 自分でもそう思う。
 一応頭ではわかっている。


(大人になってからクリぼっちじゃねぇの初めて過ぎてテンアゲでしたよ……再三確認してくれたニューイに抱いてくれと誘った俺が悪いですよ……気絶させられたはいいとしてなんで起きねぇんだよ寝ぼけてんじゃねぇよ……結果パーティーに参加しねぇで気絶帰宅とか、ナスもズーズィもドン引き確定……ハハッ)

「恋人友人とイブにクリパ行ってケーキすら食ってねぇよ~……っ」


 しかしわざわざ沼にハマってそうしないのが、めんどくさい大人の生態なのだ。

 今の九蔵には「困ったぞ……自分反省会パターンでムシになった九蔵は、私の話が一切聞こえないのだ……」とオロオロするニューイの声なんて、全く聞こえていなかった。




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