上 下
210 / 462
第五話 クリスマス・ボンバイエ

12

しおりを挟む


「我のゲームの良さがわかるとは見る目があるらしい。人間。お主はゲームのプロであるか?」

「いえ、昔から趣味で様々な種類のゲームをほぼ毎日やり続けていただけです」

「なにっ……? 趣味、だとっ!?」

「へ……?」


 しかしその返答に、常に落ち着いていた悪魔王の目のない肌から複数のギョロ目がクワワッ! と見開かれた。

 口のみだった異形の顔にギョロ目がびっしり。明らかにクリーチャーである。苦手な人が見たら卒倒するに違いない。

 九蔵はここにきて、痛恨のコマンドミスをしてしまったのだ。サッと青ざめる。


「ニューイ、それは真か?」

「む? うむ、真である。九蔵の職業はフリーターなのだ」

「フリーターッ!」

「正社員より時間の融通利きますからゲームしやすいんでっ!」


 ニッコリ笑顔で肯定したニューイに、悪魔王は地響きじみた声をあげ卒倒しそうになっていた。

 九蔵が慌ててフォローをしようとするが、時すでに遅し。

 拳を握ってワナワナと震え、全身のギョロ目がさらに増える。怖い。


「なぜだッ! なぜプロであってくれぬ……ッ! 短命な人間の更に若人に趣味でワンパンされた我の地獄ステージの立場がないではないかッ!」

「い、いやそれはですね……!」

「悪魔王様、気にすることではないと思うのだ。九蔵は凄い。私は九十八回死んでしまったのに、九十八回見ていただけの九蔵が一回でクリアしたのだよ!」

「あぁッ! 見ていただけでッ!」

「み、見ていたからです! 初見だったら絶対にクリアできませんでした!」


 ▽ニューイは笑顔で追い打ちをかけた。
 ▽悪魔王に大ダメージ!
 ▽悪魔王は嘆いた!

 九蔵の脳内に流れるキャプション。

 悪魔王は九蔵自慢という名の一撃を食らい、ついに両手で顔を覆ってしまった。

 冷や汗タラタラな九蔵が必死にヨイショするが完全に項垂れる悪魔王は、もうダメだ。しまいには玉座で丸くなる始末である。

 悪魔王。
 こんなに巨漢で恐怖の権化のようなラスボスでありながら、メンタルはスライム並みではなかろうか。


「プロでなくともせめてシステムエンジニアかデバッカーであればよかろう! フリーターなんてそんな平凡すぎる職業……!」

「いえ! 趣味と言っても友人がほぼいない私は普通の人間よりはるかに多くゲームばかりしていたので、プロ並みにゲームが得意になっていたかもしれません! なので仕方がないかと……!」

「そっそれは真かニューイっ」

「うむ! 真である。いつも九蔵はゲームをしているのだ。オトメゲームというイケメンがたくさん出ているゲームが一番得意なのだよ」

「ちょっ」

「待ていッ! お主アクションゲームは専門外ではないかッ!?」

「俺は手先が器用なタイプなので!」

「器用とかそういう次元じゃないだろう……っ! 恋愛ゲームが専門の趣味人にワンパンでクリアされた我の渾身のラストステージって……っ! ラストステージって……っ!」

「うむ、よくわからないが……九蔵は本当に手先が器用だぞ。なんせピコピコを握る私の手を上から操作してクリアしたのだか」

「間接操作ッ!」

「ニューイッ! お口チャックッ!」

「なぜ!?」


 ▽ニューイはトドメを刺した!
 ▽会心の一撃!
 ▽悪魔王は心が折れた!

 そんなキャプションが九蔵の脳内で流れた後、断末魔の悲鳴をあげて萎れる悪魔王。

 そしてただ恋人の凄さを自慢しただけでお口にチャックを言い渡されガーン! とショックを受けるニューイ。

 ──もしかして、悪魔って……ホラーな見かけを裏切るとんでもないヤツしかいねぇんじゃねぇか……?

 たった一人の人間の行動に本気で落ち込む二人の悪魔の間で恐ろしすぎる予感を感じた九蔵は、オロオロと騒動の収集に励むのであった。




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

都合の良いすれ違い

7ズ
BL
 冒険者ギルドには、日夜依頼が舞い込んでくる。その中で難易度の高い依頼はずっと掲示板に残っている。規定の期間内に誰も達成できない依頼は、期限切れとなり掲示板から無くなる。  しかし、高難易度の依頼は国に被害が及ぶ物も多く重要度も高い。ただ取り下げるだけでは問題は片付かない。  そういった残り物を一掃する『掃討人』を冒険者ギルドは最低でも一名所属させている。  メルデンディア王国の掃討人・スレーブはとある悪魔と交わした契約の対価の為に大金を稼いでいる。  足りない分は身体を求められる。  悪魔は知らない。  スレーブにとってその補填行為が心の慰めになっている事を。 ーーーーーーーーーーーーー  心すれ違う人間と悪魔の異種間BL  美形の万能悪魔×歴戦の中年拳闘士  ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。※

朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!

渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた! しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!! 至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

困窮フィーバー

猫宮乾
BL
 藍円寺は、新南津市街地からは少し離れた集落の、住宅街の坂道を登った先にある、ほぼ廃寺だ。住職である俺は……なお、霊は視えない。しかし、祓えるので除霊のバイトで生計を立てている。常々肩こりで死にそうなマッサージ店ジプシーだ。そんな俺はある日、絢樫Cafe&マッサージと出会った。

ひきこもぐりん

まつぼっくり
BL
地下の部屋に引きこもっているあほかわいい腐男子のもぐらくんが異世界に部屋ごと転移しました。 え、つがい? うーん…この設定は好きなんだよなぁ。 自分にふりかかるとは…壁になって眺めていたい。 副隊長(綺麗な烏の獣人)×もぐらくん(暗いとこと地下が好き) 他サイトにも掲載中 18話完結

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...