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第五話 クリスマス・ボンバイエ
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それからさっくり日がめくられ、気がつけば誰もが浮足立つクリスマス・イブ当日となった。
今まで冬の繁忙期に休みを入れたことがない九蔵も、越後が育って独り立ちをしていたため、あれこれ気にせず休みが取れる。
まあ越後は男子鍋会に呼んでもらえなかったといじけてチクチク文句を言っていた上に、九蔵と澄央がクリスマス休暇を取ったので爆発したが、それはそれ。これはこれ。
燃え盛る越後を落ち着かせるのに、三日かかった。些末な問題だ。
そんなこんなで悪魔二人も予定を調整し休みを合わせた九蔵たち四人は、無事ズーズィの能力で悪魔の世界へ密入国を果たした。
そしてそのままパーティー会場の悪魔城……には、行かず。
「えー本日は悪魔流仮装レシピを説明しまーす。講師はボク、ズーズィ様でーす。はい拍手~」
『パチパチパチ~』
「ウヒヒッ! 口頭拍手大草原ニューイくーん!」
ニューイの屋敷のキッチンで、仮装をすることになった。
間違いなんてない。
なぜ悪魔のパーティー衣装が仮装安定なのかとか、言いたいことはたくさんあるが、間違いなくここはレンガ造りのおしゃれで広いキッチンだ。
料理をしない悪魔の屋敷にキッチンがあるのは不思議だが、素敵なものは素敵。童話に出てきてもおかしくないなんとも言えない魅力がある。
しかしなぜキッチンなのか。
全く意味がわからない九蔵と澄央の目の前では、悪魔バージョンのニューイが大きめの桶の中に立っていた。
傍らにスタンバイするズーズィは、ドギツイ真っ赤なドレス風タキシードを着ている。しかもハートモチーフのセクシーキュートでバブルな衣装だ。
仮装しなくてもまかり通る自前の変身能力を惜しげもなく発揮したらしい。
九蔵は悔い改めてほしいと思った。
──そして始まる、悪魔流クッキング。
「んじゃあまずはこちらのどこにでもいる悪魔に、スパイシーチリ小麦の粉をかけまーす。まんべんなく!」
『ムラになると半端な仮装になってしまうのだ。お尻丸出しや両肩が乳房になるのは困るだろう?』
「そこに人魚の歌声入り魔女薬を少々。それからケンタウロスの朝どれミルクを好きなだけぶちこんで、よーく混ぜましょう!」
『素材の悪魔は、頭と体や手足を分解して混ぜると混ぜやすいよ』
「全体がムラなく混ざったら、あとはお砂糖とスパイスに、素敵なものをいっぱ~い! 仕上げはもちろんケミカルエッ」
『二千六百度の地獄オーブンで三十秒焼くのである!』
テッテレーンとポーズをキメた二人は、ガパッとオーブン、というかガチめの石窯の蓋を開けた。
そして真っ赤な小麦粉にまみれ、壺入りのミルクとその他材料をバラバラの骨にしっかり混ぜ込まれたニューイ(骨)入りの生地が、石窯の中にピザの要領で突っ込まれる。
待つこと三十秒。
チーンと軽快な音が鳴る。
悪魔の焼死体の完成に決まってるだろ、と戦々恐々とする九蔵となにを考えているのかわからないボケっとしたままの澄央をしり目に、石窯オープン。
「黒ウサバトラーなニュっちの完成~!」
「耳も尻尾も本物である!」
「いやどうしてそうなった」
中から出てきたのは、チョコレート色の上品な燕尾服を身にまとって頭からにょっきりと黒ウサギの耳を生やした、リアル二次元なニューイであった。
「悪魔のキッチンは仮装場なのだ」
「火葬場の間違いですよね?」
「さーて次どっちから焼くぅ?」
「日サロのテンションで聞かれても困ります」
「パン食いたいス」
「お前さんはなんで食欲刺激されてるんだよもう俺がおかしいのかこれ俺が間違ってんのかこれッ!」
死んだ魚のような目でデーモン三十秒クッキングを見ていた九蔵は、一人頭を抱えてツッコミを入れる。
無反応だと思えば、澄央は工程に炭水化物感をキャッチして酵母を求めていたらしい。マイペース過ぎる。
人間はレッツクッキングをすると消し炭になって死ぬのだ。間違いなく死ぬのだ。コラそこのおネズミ様。つまらなさそうな顔をするんじゃない。
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