144 / 462
第三話 恋にのぼせて頭パーン
55
しおりを挟む聞き分けのいいふりが得意な九蔵の、丸裸の悲鳴。
それはすべからくニューイの胸をズドンッと穿ち、ニューイから言葉を奪った。
ニューイが黙ったことをいいことに、九蔵は頭を抱えて泣きじゃくりながら、哀れっぽい涙声で管をまく。
「お前が本気なことくらいわかるっ……! でも、きっともっとずっと、俺のほうが本気なんだよ……っ!」
そうだ。そうに決まっている。
絶対に自分のほうが、愛情が大きい。
ニューイの好きなんてちんまりしたものだ。九蔵のほうが両手を広げても足りないくらい、ニューイを愛している。
ニューイ。
知らないだろう、ニューイ。
「だって、お前が結局イチルのほうがいいって言ってもっ……俺は簡単に喜んで、バカなもんで、嬉しくって、泣けてくんだ……っ! 俺はっ……俺はっ……」
「九蔵……だけど、私は、キミを愛している」
「ぁ……あぁ……ぁぁぁ……っ!」
知らないくせに、彼はこんな面倒な男を、愛していると、言い続けるのだ。
あぁぁぁ、と、いい歳をした大人の男が、みっともない声で啼泣した。
こんなに泣いたのは久しぶりだ。子どもの頃以来かもしれない。そんなものだから、子どものような泣き方しかわからなかった。
九蔵がそうだから、同じく泣いていたはずのニューイはオロオロと慌てて、自分が泣かせた九蔵の背中に手を伸ばして覆い被さる。
「あぁ~……っふ……あぁ~……」
「九蔵、すまなかった……私が悪かったよ……私は鈍感で不器用な馬鹿者だね……九蔵、ごめんよ、九蔵……だけど、私はちゃんとキミが、好きだよ……」
「は……っぁあ……っ」
「私は確かに亡くなった今も、イチルを愛している……だけど、イチルの代わりじゃなくて、ちゃんと今を生きている九蔵を愛しているのだ……」
「あぁぅ~……っ」
「本当にすまなかった……永遠の片想いなんて、二番手なんて、覚悟をさせて本当にすまなかった……」
ニューイは懸命に懺悔した。
九蔵が泣くばかりで返事をしなくても、九蔵が信じられるように何度も謝罪と愛の言葉を繰り返した。
「本当だよ、九蔵……本当に愛しい……私は最低な男で、私をなじるキミの言葉すら、私は愛しいのだ……私には、キミが世界一の素敵な人間にしか見えない……」
温かい体温。
ニューイの体温は、まるで麻薬だ。
一度味わうと、抜け出せない。
離すまいと抱きしめる腕は九蔵を痛めつけず、底抜けな愛を持って、本当に丁寧に包み込む。彼の本気が、如実に伝わる。
九蔵はどうにか泣きやもうと喉奥をヒクヒクと震わせていたが──不意に、温かい手が丸まった九蔵を揺らした。
身構えていなかったので、九蔵はコロンと呆気なく仰向けに転がされる。
驚き目を丸くすると、月明かりの中でしっかりと涙を止めて心配そうにこちらを見る悪魔の顔が近づいてきた。
「へ、ぅ……」
チュ、と、柔らかい感触。
生ぬるい吐息を、吸い込む。
数秒優しく食まれたあと、離れていく熱を感じて、九蔵は彼の唇が自分の唇に触れたことを、理解する。
(これ──……キ、ス……?)
マシュマロと言うよりは、上品なわらび餅のような滑らかなさわり。
九蔵は、他人の唇のやわらかさを、生まれて初めて実感した。
10
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
都合の良いすれ違い
7ズ
BL
冒険者ギルドには、日夜依頼が舞い込んでくる。その中で難易度の高い依頼はずっと掲示板に残っている。規定の期間内に誰も達成できない依頼は、期限切れとなり掲示板から無くなる。
しかし、高難易度の依頼は国に被害が及ぶ物も多く重要度も高い。ただ取り下げるだけでは問題は片付かない。
そういった残り物を一掃する『掃討人』を冒険者ギルドは最低でも一名所属させている。
メルデンディア王国の掃討人・スレーブはとある悪魔と交わした契約の対価の為に大金を稼いでいる。
足りない分は身体を求められる。
悪魔は知らない。
スレーブにとってその補填行為が心の慰めになっている事を。
ーーーーーーーーーーーーー
心すれ違う人間と悪魔の異種間BL
美形の万能悪魔×歴戦の中年拳闘士
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。※
朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!
渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた!
しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!!
至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ひきこもぐりん
まつぼっくり
BL
地下の部屋に引きこもっているあほかわいい腐男子のもぐらくんが異世界に部屋ごと転移しました。
え、つがい?
うーん…この設定は好きなんだよなぁ。
自分にふりかかるとは…壁になって眺めていたい。
副隊長(綺麗な烏の獣人)×もぐらくん(暗いとこと地下が好き)
他サイトにも掲載中
18話完結
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
僕の心臓まで、62.1マイル
野良風(のらふ)
BL
国民的女優と元俳優の政治家を両親に持つ、モデル兼俳優の能見蓮。
抜群のルックスを活かし芸能界で活躍する一方、自身の才能に不安を抱く日々。
そんな蓮に、人気バンドRidiculousのMV出演という仕事が決まる。
しかし、顔合わせで出会ったメンバーの佐井賀大和から、理由も分からない敵意を向けられる。蓮も大和に対して、大きくマイナスな感情を持つ。MVの撮影開始が目前に迫ったある夜、蓮はクラブで絡まれているところを偶然大和に助けられる。その時に弱みを握られてしまい、大和に脅されることになりーー。
不穏なあらすじとは裏腹な、ラブ&コメディ&推し活なお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる