上 下
125 / 462
第三話 恋にのぼせて頭パーン

36

しおりを挟む


 それでも何事もなかったかのようにズーズィと仲良くしているのを見ると、逆にスゲーな、と九蔵はいっそ感心した。

 九蔵からすると、それだけ怒っていたのに今はズーズィと仲直りしているなんて信じられない現象だ。

 九蔵はニューイとたった一度喧嘩しただけで家に帰ることすら億劫だった。
 平然と会話して遊園地の誘いをかけることなんて、死んでもできやしないだろう。

 もしそのくらい言いたいことが言えれば。喧嘩をしても仲直りができるのであれば。

 きっと自分ももう少し、ニューイにワガママが言える。ような気がする。


「? 仲直りとかしてないスけど。てか俺ら喧嘩してねース」

「マジでか」

「マジス。お互い気に食わないこと言い合っただけスね」


 そんな下心から勉強のつもりでさり気なく尋ねてみたがあっさりと返され、九蔵は目を丸くした。


「気に食わないことって、不満じゃねぇの?」

「不満スよ? だから言うッス。まあ性格ありますけど、俺とズーズィはあんま遠慮とかしねーし気にもしねーから言ったほうがイイスね」

「な、なるほど……」


 性格か。なら自分には向いていない。九蔵は気持ち肩を丸くする。

 それからふと、思い至った。
 そういえば、不満をすぐに言う澄央と自分は喧嘩をしたことがない。ということは、我慢をさせているのだろうか。


「ノーッス。それは俺が文句言ってもココさんが俺に文句言わねーからスね。つまり、ココさんがおかしいんスよ」

「俺?」


 ジロリと睨まれ、首を傾げる。


「俺ってマジで割とワガママっ子ス。それに、恋愛感情抜きで仲のいい男って貴重なんス。だから、ココさんは大事なんスよ」


 澄央は「そんでついスキンシップ過多だったり、甘えたり、新参を警戒したり、文句言ったりしちゃうス」と言った。

 普通はそれらに怒るらしい。
 鬱陶しがってしかるべきだと。


「んー……でもそれは、俺にナス以外友達がいねぇからかもだけど……気にしてねぇから文句言わねぇかな」

「はぁ……それっスね」

「え?」


 それ、とは。カシカシと後頭部をかいていた手を止める。


「この際だから言うんスけど、ココさんってなーんでそんな器用なんスか?」


 普段から真顔な澄央だが、今は真剣味をプラスした表情で九蔵を見つめた。
 思わずたじろぐ。自分では不器用だと思っているのだが。

 そう言うと、澄央は「いーや。器用だから不器用なんスよ。俺名探偵の曾孫のマブなんで」としみじみ否定した。


「今日、久々会ったスけど元気ねぇッス」

「あー……夜勤だからな」

「ほら。俺が気づいてたら理由言うまで逃がさねーから、嘘じゃない程度のそれっぽい理由で誤魔化す。なんでもねーって誤魔化すと俺が嫌がるからでしょ」

「っ?」


 図星だ。流石に表情に驚愕が出てしまった。確かに、本当はニューイのことで悩んでいる。けれど夜勤のせいで眠いのも本当だ。

 別に特別気にしてそうしているわけじゃないが、頭の中で軽く考えてから話す癖があった。


「や、でもそれはな……」

「言い訳無用。俺が文句言っても怒らねーで謝るのも、本当は〝俺に嫌われたくないから〟じゃねーんスか」

「うっ……」


 またしても、図星。
 自分の性格が紐解かれていくのは恥ずかしく、九蔵は居心地悪くどもってしまう。

 澄央はほら見たことか、と言わんばかりに仁王立ちで九蔵の顔をのぞきこんだ。


「ココさんは〝澄央に嫌われる〟と〝澄央の文句を許容する〟を天秤にかけて、嫌われるよりマシだから俺の文句で怒らねーんスよ」

「……お前、むしろ名探偵本人か……」


 自分でも気づかなかった弱いところまで暴かれると、九蔵はもう下手くそな笑顔で認めることしかできなかった。




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

都合の良いすれ違い

7ズ
BL
 冒険者ギルドには、日夜依頼が舞い込んでくる。その中で難易度の高い依頼はずっと掲示板に残っている。規定の期間内に誰も達成できない依頼は、期限切れとなり掲示板から無くなる。  しかし、高難易度の依頼は国に被害が及ぶ物も多く重要度も高い。ただ取り下げるだけでは問題は片付かない。  そういった残り物を一掃する『掃討人』を冒険者ギルドは最低でも一名所属させている。  メルデンディア王国の掃討人・スレーブはとある悪魔と交わした契約の対価の為に大金を稼いでいる。  足りない分は身体を求められる。  悪魔は知らない。  スレーブにとってその補填行為が心の慰めになっている事を。 ーーーーーーーーーーーーー  心すれ違う人間と悪魔の異種間BL  美形の万能悪魔×歴戦の中年拳闘士  ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。※

朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!

渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた! しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!! 至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

待てって言われたから…

ふみ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

処理中です...