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第三話 恋にのぼせて頭パーン

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 さて諸君。

 手遅れな恋を自覚したならば、まずは相手の好感度を確認しつつ、イケそうなら告白をするのが正しいルートだと思う。

 きっかけがなんであれ本気の恋だ。
 ぬかってはいけない。

 悲しきかな、男とは単純な生き物でもある。好きでなくとも体は反応し、気持ちよければそれでいい。

 恋のアドバイザーことズーズィの助言に従いそれを逆手に取れば、まずは九蔵との行為を気持ちいいと思わせる。

 それと共に九蔵もニューイのセックスの好みを学び、他の男では満足できないような手練れになれば第一段階は突破。

 魂ではなく体を重ねれば、否が応でも現実の九蔵に目を向けるだろう。

 イチルがどれほどの美少年だったのかは知らないがその体は戻らないし、九蔵は美少年ではないので諦めてもらうしかない。

 ……そういえば、最近はあまり魂魂結婚結婚と騒がなくなった気がする。

 もしかしたら、もう九蔵の魂なんて恋愛対象ではなく、ただの食料になり下がったのだろうか。なんてこったい。一大事だ。

 いやしかしイチルと別れてずいぶんな年数が経っているわけだし、いかな悪魔が執念深いと言えど毎日面白みのない顔立ちの骨ばった男と暮らしていれば、百年の恋も冷めるのかもしれない。有り得るだろう。

 ああニューイ。ああああニューイ。ああニューイ。九蔵、心の俳句。


「とか言って、王子様系ゲームに逃亡すること三か月スよ」

「肉体改造と整形の費用がまだたまってねーんだ」


 バイト終わり。
 夜のバックヤード。

 二か月前に発売されたばかりの乙女ゲームを携帯機でカチカチとこなす九蔵の目の前で、澄央はご飯マシマシスタミナ特盛丼を掻き込んだ。

 特盛丼なのにご飯マシマシとは。相変わらず炭水化物が好きらしい。見ているだけでお腹がいっぱいになる。

 というか、なぜ澄央が九蔵の恋愛事情を知っているのだろうか。
 不思議に思って尋ねると、「俺とズーズィはメル友ス」と言われた。あの野郎。


「ココさん。サラダどんぶり食べてる場合じゃねっス」

「だって俺スタイル悪ぃし……」

「ココさんが足りないのは肉スよ? 美容に疎すぎて逆にガリガリ君になるじゃないスか。筋肉増やすならタンパク質ス」


 ガリガリ君。
 なんて酷い罵倒だろう。

 男にとって細いというのは褒め言葉ではない。褒め言葉は筋肉だ。九蔵とは仲が悪い肉である。

 これでもニューイと食事をすることで肉が増えてきたインドア派の九蔵なのだが、いかんせん近頃は恋の病で食欲が減退していた。

 おかげでゲームが捗る捗る。
 告白の勉強と現実逃避だ。

 アルバイトだって捗る捗る。
 二人きりになると照れて逃げてしまうので、シフトを入れまくっているのだ。

 ここのところ、九蔵は自分の恋愛下手が小学生ではなく、幼稚園児だったことを痛感していた。

 ゲームだと好感度を確認しつつ最良の選択肢を選び、ミッションをクリアするだけで推しが微笑んでくれる。

 けれど現実はそうじゃない。

 好感度メーターなんてどこにもなければ、選択肢だって出てこない。彼サイドストーリーなんてどこを探してもありやしないのだ。片想いの相手の気持ちなんてわかるわけがないだろう。

 そうなると自分に自信がない九蔵なので、わかりやすくニューイより煌びやかではない自分の見た目が気になってしまい、告白はストップ。

 夜の餌やりで服は脱がない。ニューイを押し倒して咥え込むなら裸になる。

 その状況を思い浮かべただけで、ゲームを手にする九蔵の手がプルプルと震えはじめ、わかりやすく椅子の上で膝を抱えた。




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