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第二生 もぎたてフレッシュ喫茶店
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しおりを挟むあの朝。喫茶店を開く許可を得たあと、ジェゾは顎をなでて言った。
『己の知る限り、少なくともこの国にキッサテンという文化はないぞ』
『キッサテンは大衆向けの店なのだろう? そもそも庶民の世界には嗜好品としての飲料がほとんどない。あるとすれば酒ぐらいで、飲料を主とする飲食店は酒場だけだ。己とて普段は水か酒しか飲まぬよ』
果汁や動物の乳も飲むが食材としての認識が強く、日頃毎日飲むものといえばやはり水か酒。
茶を嗜む者は貴族や学者が多い。
庶民は茶を飲んでも味には頓着していない。マズくなければいい。
貴族ではないが王宮に出入りしお茶文化を知るジェゾは、初めからウマイ飲み物に価値があるとわかっていた。
だからジェゾも皇帝もドリンクバーをバカにしなかったわけだ。
黒ローブ集団には一蹴された謎も今更解けたらしい。
先行き不安。かもしれない。
急いでマーケティング戦略を考えねば、閑古鳥に愛されそうだ。
一斉はツーミンと白熱した喫茶店文化拡大計画会議を重ね、よりいっそう気を引き締めて開店に備えることにした。
「はずだな」
「あぁ」
「お主〝茶は貴族や学者が嗜むもの〟というイメージを逆手に取り、日常から離れ心安らげるキッサテン空間をアプローチすると決めたのであろう?」
「あぁ」
「なぜ両腕を背で組む」
「店員っぽく。敵意ねぇってカンジ……すぐ攻撃できねぇから」
「なぜ足を開く」
「……? 足揃えて、立たねぇだろ」
「イッサイ、お主が目指すものは貴族や学者が似合う落ち着いた店だ。その立ち姿は護衛任務中の傭兵にしか見えぬ」
ドンと胸を張り休めの姿勢をとってみせる一斉から漂う拭いきれない舎弟感と、それに物申すジェゾ。
そして二人の前、テーブルを挟んだ席で背もたれごとぐるぐる巻きに縛られたマヌケな侵入者ことネバル。
「いやどんな状況ねーんッッ!!」
「少し声が大きいな」
「ウッス」
ネバルはキュ、と口を噤んだ。
猛獣は耳がいいのである。さぞかし気に障ったことだろう。
しかしネバルは叫ばずにいられなかったし今も叫びたかった。
当たり前だ。巨大ジャガーに首根っこをひっつかまれた恐怖と絶望でスムーズに気絶したはずが、目を覚ますとなぜか拘束されて眼の前には愉快な男と厄災の獣がいたのだ。
まぁ拘束はなぜかというか順当にだが。順当にこのあと殺されそうだが。ネバルは白目をむく。
こんなつもりじゃなかった。
白獣が奴隷を買ったという情報は得ていたし、裏を取るために観察もした。
奴隷はただの人間族で、小部屋にこもり雑用に明け暮れるかキッチンを荒らすか昼寝をするかである。
見た目はアレだが白獣に逆らえないらしく、外出も許されていない。強いて言うなら独り言が多い程度。
これはしめたぞ、と。
せっかく豪華な屋敷に住んでたんまり褒美を溜め込んでいても、主がダンジョンに入り浸りなら宝の持ち腐れ。
ならばこの義流怪盗ネバル・マンボルト様が有効活用してくれよう!
義流怪盗とは世のため人のために情報や宝などを調査したり盗んだりする所謂スパイ的な職業なのだが、ネバルは悪賢く、また残念なお調子者であった。
白獣は執着しない。
人にも物にも頓着せず、唯一現皇帝にのみ絶対忠誠を誓っている。
ほぼ帰ってこない番人なんていないも同然だ。金銀財宝がもったいない。
奪われてキレそうなものの情報は数年遡っても出てこないし、あの様子じゃそもそも気づかないだろう。
ニャオガ族は縄張り意識が強くテリトリーを侵すと敵認定される。
バレたくないが、バレたとしても二度と近づかなければいいだけのこと。
だったのに、結果がこれ。
「てかなんでボク様この状態……殺るなら一思いに殺ってくれん……? 殺らんならさっさと解放条件交渉させてほしいぜなん……というかサテン逃がしてくれのん」
「お客様……」
一斉はさめざめと涙しながら絶望に打ちひしがれ(つつもさり気なく無条件解放を要求す)るネバルを、お行儀よく両足を揃えて両手を前に組んで見つめる。もちろんさせられているだけである。
黄色混じりの群青色の髪と肌。
ビチビチもがく尾はヌルヌルで、換気口から逃げ出せるスマート体型だ。
そしてなによりよく見ると効果エフェクトのようにパチパチと電気を纏う謎の特性。そういえば毒をもったらバチバチすると言っていた。なるほど。
「お客様は、電気ウナギ。ですか」
「こら、族人を原生種で呼ぶことはあまりよくない。そこのウナギは客役だろう? 実習訓練だと言ったはずだぞ」
「待って待って初耳なんボク様お客様なん初耳なん。あとウナギ言ってるねん。ウナギ言ってるねーんっ!」
「ネバル・マンボルト」
「ウッス」
お望み通りウナギ呼ばわりを脱したというのに、ちっとも嬉しそうじゃないネバルであった。
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