31 / 72
第一生 子猫とジャガーとドリンク無双
23
しおりを挟む黒ローブ的にあまりよろしくない。
せっかく説明したのに失望されてしまった異世界一日目を思うと、ドリンクバーは他人の役に立つ能力ではなかったのだろう。
一斉は素敵と思う。
立仲のコーヒーを布教できる素晴らしい能力じゃないか。
しかし他人にとっては、ただ一斉の考えつく珍妙なドリンクがいつでもどこでも取り出せるだけ。
召喚獣は主の代わりに戦う。
なのにドリンクバーは戦闘力皆無。一斉自身も見掛け倒しで強いと言ってもファンタジー生物には勝てない。今後可能なら修行を積んでこの世界基準でも強くなる予定はある。
だが今は期待外れのザコ召喚獣だ。
能力の正体がバレると、黒ローブと同じように皇帝も失望して一斉を野に捨ててしまうかもしれない。
皇帝に失望されるとジェゾが困り、自分も困る。
出かける時に便利ではあるのだ。
無料の自販機程度には。……個人的にはなかなかオトクな気がするのだが?
「…………陛下」
「なんじゃい」
「飲み物、好きなのなんだ」
「好む飲み物? 酒じゃな! 特にエールを好んでおるが、ちと複雑で甘すぎる故に毎日飲むとなれば老体には重くての。じゃがやめられん。暖かくなってきた近頃は、こう、喉がスッとするような冷えたエールを一気にだなぁ……!」
直球で好みをリサーチすると、皇帝は無邪気に笑ってアレコレ語った。
よし、酒はそこそこわかるぞ。
兄貴分のお使い経験が役に立つ。
世界の翻訳機能でエールがビールだとわかった一斉は、ドリンクバーの画面を開き、頭の中にビールを思い浮かべた。
毎日気軽に楽しめそうなビールか。
なら、スッキリ感でお馴染みのスーパーでドライなアレにしてみよう。
追加効果は節約する。今日はもう三回ドリンクバーを使っているし、レベル2じゃさほどアピールポイントにならなさそうだ。
完成を固めてボタンを押すと、瞬きする間に一斉の手元へビールが現れた。
「っ? ほう、エールじゃな」
皇帝はほんの一瞬不思議そうに目を丸めたが、すぐに笑顔を浮かべた。
一国の主ともなると肝が据わっている。キンキンに冷えて汗をかいているグラスを差し出すと、物怖じせずに手に取った。
「ふむ……」
汗をかくジョッキに、ビール。
見るからにキンキンだ。
黄金色の海には細やかな気泡が立ち上り、ジョッキの縁ギリギリを今にも溢れそうに浮かぶキメ細やかな白雲がシュワシュワと賑やかに音を立てている。
ゴクリと皇帝の喉が鳴る。
まさに垂涎のコントラストだろう。
酒好きにはたまらない光景なのだが、一斉はこの見た目とこの性格で紛うことなき未成年である。特にそそらない。
ややあって、皇帝は毒味をさせることもなくグッ! と一息にジョッキを煽った。
「!!」
ゴクッ、と上下する喉仏。
そしてそのままゴクゴクゴクゴク、とジョッキごと飲み尽くさん勢いで飲み干されていくビール。
そんなに喉が渇いていたのか?
≪う、うぅ~ん……現代の法律じゃあ喫茶店ではお酒の提供は許されてないんだけど、ここは異世界だもんな~……≫
喉に優しそうな付与をしておけばよかったとやや後悔する一斉の脳内に、ホワホワホワーンと立仲の声が響く。
≪個人で飲むなら問題はないし……うん! 人と空気と飲み物で人生の羽休めを、が喫茶店のいいところだものね。コーヒーもお酒も同じさ!≫
≪ただ酒場と住み分けるためにも、夜はお店には出さないようにしないかい?≫
「あぁ。タナカの言う通りに、するぜ」
立仲の提案に、にべもなく頷く。
一斉にとってあの日の自分を救おうとしてくれた恩人でありつぐない相手の立仲は、グウゼンと同じ神にも等しい存在だ。メインはコーヒーなどソフトドリンクで、酒類を出すなら昼間に少しとしよう。
「~~っはぁ! イッサイ! お主を捨てた協会の連中は世界一の節穴じゃな!」
「っあぉ、お?」
一斉がそう心に決めていると、ビールを飲み干した皇帝が飲み干すと同時に叫び、嬉々としてガバッ! と一斉を抱きしめた。
104
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
淫愛家族
箕田 悠
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる