喫茶つぐないは今日も甘噛み

木樫

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第一生 子猫とジャガーとドリンク無双

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 動きが冬眠明けのクマっぽい。
 密室に二メートルを余裕で越す二足歩行の獣が登場したら、気の弱い人なら気絶しそうだ。

 軽装備を解除してラフな衣装を身につけたジェゾは、自分を呼んだ一斉の元へのっしのっしとやってきた。


「ここは帝都のおれの屋敷だ。今は翌日の昼間である」

「記憶がねぇ」

「お主はおれが担いで走っている間に眠ってしまってな。動くには暗い故に、寝かせておいたのだ」


 なるほど。ベッドも窓もドアも大きかったのは、ジェゾサイズだったからか。

 ジェゾは一斉を両腕で抱えてからベッドに腰掛け、膝の上に乗せる。

 豪奢で作りのしっかりした大きめのベッドが軋むほどの巨体の膝は、普通より大きく筋肉質な一斉が乗ってもビクともしない。

 身を預けてみると、嫌がられずに頬を舐められた。子猫扱いは継続中だ。


「これから皇帝陛下へ任務の報告に参る。お主も共にゆくぞ」

「ぁ? なんで、王様」

「援助が必要であろう? イッサイは契約されぬまま道が閉じた召喚獣。本来なら放逐されるが、幸いお主は人間族で会話能力もある。陛下は人格者故、事情を説明し帝国臣民として服従を誓えばお主を迎えてくれるはずだ。民であれば助成金も出るぞ。当面は生きていけるだろう」


 一斉が眠っていた間にいろいろ考えていてくれたらしい。ずいぶん都合のいい提案ににベもなく頷く。

 しかし昨日の今日で王様に面会できるほど、ジェゾは偉い人なのだろうか?
 尋ねると、首を横に振られた。


おれは貴族ではなく〝特権階級ハンター〟だ」


 ハンターとは──半永久的に変動し修復し続ける不思議な迷宮ことダンジョンに潜り資源を確保する、たいへん名誉な職業である。

 危険なモンスターやトラップをくぐり抜け日々素材を集めてくれる仕事人。

 街の外ではあちこち野獣やはぐれモンスターが蔓延るこの世界において、全ての生活は素材を集めるハンターありき。故にハンターはたくさんの人が就いている。

 中でも皇帝から直接ハンター役を命じられた数人は別格だ。

 トップ直属の私兵に近い。
 一筋縄ではいかないダンジョン下層のモンスターから希少素材を確実に集められるプロフェッショナル。
 かつ一個人としても皇帝が認めたものだけが授かる称号。

 それは皇帝を最高権力者と仰ぐこの国においてなによりも名誉な証だ。

 異常な戦闘力に特殊なスキルなど、個性はあれども皆人より抜きん出て強者なので、権力や屋敷を与えてでも引き止めていたい。

 〝特権階級ハンター〟

 ジェゾはそれだと言う。


「特権階級ハンターは僅か故、重宝され注目されるぶん顔も利く。付加価値か体面か……理由はさておき、通り名が付くな」

「通り名? ジェゾは」

「己は〝白禍ハッカ〟だ。民衆や文屋には〝白獣〟と呼ばれることが多い」

「へぇ」

「まぁ、白は不吉の象徴。見てくれそのままと捻りはないが、敵を威嚇するにはわかりやすく効果的だろう」


「お主には効かなかったが」と付け足される。言葉は呆れているものの、ジェゾに不満はなさそうだ。

 一斉からすると順当なのだが。
 なんせ前の世界では、不吉な色といえば黒のイメージがある。白が不吉と言われても当たり前にしっくりこない。

 そう言うと、ジェゾは「黒が不吉なら肌も髪も黒いお主が不吉になるではないか」と喉を鳴らして一斉の顎を甘噛みした。

 たびたび甘噛まれる。
 ジェゾの癖なのかもしれない。


「……ん。ジェゾ」

「ん?」


 大人しく噛まれていた一斉は、ふとドリンクバーのことを思い出した。

 ジェゾにコーヒーを振舞おう。
 ツーミンがあれだけ喜んだのだから、ジェゾも喜ぶはずだ。

 ジェゾを喜ばせたい。
 それに立仲のイチオシを広めねば。




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