10 / 72
第一生 子猫とジャガーとドリンク無双
02
しおりを挟む小一時間後。
「グウゼン。俺ぁ、野良召喚獣から、捨て召喚獣に、なっちまったぜ」
来たれ! と呼び出されたはずなのに半日も経たずポイ捨てされた一斉は、地球と違って薄ら青い月明かりに照らされながら、パチクリと瞬きをした。
曰く、召喚獣を元いた場所へ戻すのも手間がかかるらしい。
雑に捨てられてしまったようだ。
グウゼンがああもお膳立てをしてくれたのにまさか契約自体をしてもらえないとは。流石異世界。やはり罪をみそぐからにはしっかりハードモードである。
とはいえ少し困った。
飼い主がいないまま、知らない世界で一斉は一人ぼっち。男一匹野良暮らしだ。せめて人里に捨てられたかった。
ホウホウギャアギャアとあちこちから聞こえる不穏な夜の鳴き声と鬱蒼と生い茂る森が絶望感を煽る。
一斉はホラーもグロも全然平気だ。
ただここまで運んできた黒ローブたちによると、この森は獰猛な獣や大蛇だけじゃなくダンジョンから抜け出したモンスターまでいるらしい。これは全然平気じゃない。
一斉は確かに、恵まれた体格と幼少期に培われた攻撃への反応速度により殴る蹴るの喧嘩が強い。
しかし現実的にモンスターと生身で戦ったことはないのである。あってもギリ小さめのイノシシだ。
明日の朝にはどいつかの腹の中だろう、と笑って去っていった黒ローブ。
かなり危機的な状況である。
洞窟からもそれなりに運ばれたので、手足のロープが外せたとしても土地勘もないのに夜闇の中を戻ることはできない。街の方向すら知らない。
遠回しに死ねと言われている。
アジトらしい洞窟で殺すより自然に死んでくれたほうがいいのだろう。
いや別に死ぬのは構わないのだが、死ぬわけにはいかない理由が今はある。
死んでから死ぬわけにはいかなくなるとは、運命とは不思議なものだ。
「……喫茶店、作るわ」
しっかり生きねぇと。
一斉はまず動きを制限するロープを切るため、近くの岩へ縛られた両手首をゴリゴリと擦りつけた。
ロープと共に皮膚が一緒くたに削れて、擦過傷が幾重も生まれる。
この程度の痛みなら屁でもない。
ただ、ロープを削る一斉の頭の中には、黒ローブたちが消える前に言い残した言葉がグルグルと回っていた。
(役立たず。俺は、役立たずか)
死んでくれたほうが都合がいい。
役立たずだから、いないほうがいい。
まともに学校に行けなかったバカな一斉は、そういう言葉と下心だけは、人一倍よく知っている。
実の父親からからかうようにかけられるそんなセリフや扱いが、日常的なものだったからだ。
『ほーらいいかーよく聞けー? 飯食って空気吸って場所取って目障りで耳障りで俺に迷惑かけて生きてるお荷物のクソガキ。グズの一斉。それがお前。はー……こんな図体デカイだけのバカじゃ俺の跡目にしても金稼ぎそうにねぇし上の器でもねぇし……やっぱミラクル期待してガキ作るなんざコスパ悪ぃな。わかるか? コスト。テメェ一人養うためのコスト。お前が使えねぇばっかりにそれが全部無駄になンだよ、この役立たず』
これが笑顔でかける言葉。
グウゼンの言葉を借りるなら、父親はおそらくどうしようもないほど悪の魂だったのだろう。
冷たい人だった。しかし強い人だった。自分の信念というものを一切変えない。頭も良かった。夢を叶える悪人だった。
一斉と母親は、弱かった。
自分の信念もない。他人がいなければうまく生きていけない人種だ。愚かだろう。人任せにして生きたくせに使い捨てられると寂しがるなんて。
「……いてぇ……」
ポツリ。ささめく。
ゴリッ、ゴリッ、とロープごと擦りつけた手首から血が滲むが、痛くはなかった。
黒ローブが言っていた猛獣やモンスターの餌食になる前に、この森をぬけて人のいる場所を目指さなければならない。
生きよう。
立仲の望みを叶えるため。グウゼンの優しさに報いるため。生きよう。
──けど……いてぇ、な……あったかくて、デカくて、強くて、優しいなにかと……。
「一緒に、いてぇな……」
ブチ、と手首のロープが切れた。
バカなことを望むのは終わりだ。誰もいないと口数が多くなっていけない。次は足のロープを解こう。
そうして地べたに座り込んだ一斉が、血のにじむ手でロープに触れた時。
「──なんだ、人間族か」
「っ……」
自分が背にしていた岩の上から突然知らない声が聞こえて、一斉は腕だけで素早く身を翻した。
90
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる