上 下
878 / 901
十五皿目 正論論破愛情論

78(sideアマダ)

しおりを挟む


 ──神殿前・広場。

 本来なら明るい時間帯に執り行うはずだった儀式が、トラブルにより月の昇る時間帯へとずれ込んでしまった。

 風の向くまま気の向くままに生きる精霊族とはいえ、信仰は違う。行動の指針だ。

 失敗は許されない。儀式の成功が、精霊王としての大きな仕事。

 千年に一度のたいへんな儀式であるから、わざわざトラブルシューターとして魔王に助力を願ったのだ。

 にも関わらず、トラブルは起きてしまった。

 極秘の儀式故に遠ざけていた魔王の妃であるシャルが、護衛を引き連れ会場に乗り込み、儀式に必要な祭事具を破壊したのである。

 どうやって城の中央へ入ってきたのかはわからない。

 精霊城は外からは見えないように霊法が掛かった特殊な城で、人間がかんたんに侵入できるはずはなかったのに。

 だがその謎を解明する時間はなかった。

 壊れた祭事具を補修し、とにかく儀式を行うことを最優先に考えねばならなかったからだ。

 いつもはこういう時、政治を担当するセファーが案を出して、解決してくれる。

 会場で侵入者が暴れるなら、軍事を指揮するジファーが前に立ち、ことを収めてくれる。

 けれどどういうことかジファーは姿が見えず、セファーは会場の補修の指揮にかかりっきりだ。

 アマダとてそれらの管理に追われていたので、他には手が回らなかった。

 ただどんなに忙しくてもシャルの言ったことが頭に残り、顔色が曇る。
 怒りのような、悲しみのような、処理しきれない気分になる。

 シャルは、アマダを否定するからだ。

 アマダにそんなつもりはなかった。
 きちんと説明しているのに、シャルはアマダの痛い部分を的確にいたぶる。

 酷い話じゃないか。
 離れを訪ねて話をした時は、シャルはあたかも自分が被害者のような顔をしていた。

 まるで善人であると語るように、恋敵であるアマダを受け入れる素振りをする。

 アマダがどれだけ魔王を想って正しいことを説明しても、シャルは頑なにワガママを言い張るのだ。

 その発言のたびに魔王の名前を出されて、アマダは何度も胸が痛くなった。

 アマダはシャルの二倍も前から想っている。

 魔王のために精霊王にもなり、他種族で男である自分を嘆きながらも、想い続けていた。

 もちろん、シャルの存在を知ってからも無理を通す気はなく、譲ってもらえないなら身を引こうとしたじゃないか。

 なのにシャルは魔王に愛され、仲間に愛され、そして穏やかな善人を気取り、思い出話を語る。

 アマダは懸命に笑ったが、表情や涙に悲しみが溶けてしまった。

 ずっと昔から共に支えてくれているセファーにはバレてしまい、あの日の夜は慰めを求めたほどだ。

 求めた存在が手に入らない悲愴は、精霊王だろうと一人では耐えられない。

 儀式の段取りが整ったことを確認しながら、アマダは自嘲気味に笑った。

 そんなアマダを、王兄であるガルが広場の隅から見つめている。

 いつものことだ。
 優秀な兄だったが、精霊族の中でもいっとう個人主義である。

 ガルに嫌われていると思っているアマダは、その視線の意味は特に考えず、仕事を進めた。

 このように、根底に愛を求める心があるアマダは、しばしば他人の感情を都合よく取ってしまうところがある。

 寂しげに笑っていればセファーやジファー、司祭たちや兵が気にかけてくれるからだ。

 それは無意識の行動だった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

見せしめ王子監禁調教日誌

ミツミチ
BL
敵国につかまった王子様がなぶられる話。 徐々に王×王子に成る

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

[R18] 20歳の俺、男達のペットになる

ねねこ
BL
20歳の男がご主人様に飼われペットとなり、体を開発されまくって、複数の男達に調教される話です。 複数表現あり

[R18] 転生したらおちんぽ牧場の牛さんになってました♡

ねねこ
BL
転生したら牛になってて、毎日おちんぽミルクを作ってます♡

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

処理中です...