上 下
875 / 901
十五皿目 正論論破愛情論

75

しおりを挟む


 話を聞くと、ゼオの分体であるコウモリは、通信機の役割を持つようだ。

 本体を介してあちこちと通信を繋げることができるので、電話がないこの時代、とんでもなく重宝する能力である。

 そんなわけでコウモリを介して、魔界の動きをふむふむと教えてもらうことになった。

 電話口、じゃないコウモリ口に出たのは、お母さんことママゼンさんだ。

 捕まえた右王腕を捕虜にして精霊族の動きを吐かせたらしく、こちらは慎重に準備したこともあって、万全の体制らしい。

 では──いよいよ作戦も大詰め、か。

 後は儀式が行われるまでに周囲を魔界軍が固め、タローを送り込むために神扉が開いた時を狙い、突撃だ。

 その時、俺を排斥することでアマダたち精霊族の重鎮の信頼を得たアゼルは、一人でアマダたちの動きを抑えつけるだろう。

 魔界軍は同時に総攻撃を仕掛け、精霊族の兵士たちを神扉に近寄らせないようにする。

 共にやってきたことをお忘れかもしれないが、アゼルの近衛兵である黒人狼たちはこの為に内情を探っていたのだ。

 黒人狼達のサポートを得て、ライゼンさんが指揮する魔界軍は、精霊族を殺さず・・・抑える。

 そしてリューオとガルが俺をサポートし、俺は隠密スキルを駆使してタローの元へ一直線。

 俺がタローの元へたどり着いて鳥かごを破壊するのが、総攻撃の合図だ。
 そうなれば、後は最終目的を達成するのみである。

 ふふふ、おかしなことにな?
 魔界と俺たちとアゼル。テーブルを囲んで作戦会議なんて、一度もしていないんだ。

 アゼルは精霊族に監視されているから、マメな作戦会議なんてできっこない。

 それに俺たちと通じてやっつけ三人組になってから、ガルはアゼルと会っていなかった。

 同時にあちらこちらと居れば、万が一にでも通じているのがバレてしまうかもしれないからな。

 けれど曖昧な説明しかなされていなくともこうしてなんとなく最終目的がわかるのは、二年半の月日を過ごしてきた仲間だからだと思う。

 ライゼンさんは「魔王様がなにも言わないのには、もう慣れましたよ。霊界は監視するから、魔界はどうにかしてくれ、できるだろ? なんてワガママを言われるようになるとは、思ってもいませんでしたが」と笑った。

 就任からの付き合いともなると、流石の貫禄である。強い。ライゼンさん強い。

 そうしてお互いの現状把握と今後の確認を終えると、突然「キッ、キキッ」とコウモリが鳴いた。

「キキッ、ランボウ、カイセン、ユウシャ! ヨビダシ!」
「あぁんッ? なんで俺なんだよ。小難しい話は全部シャルの担当だぜッ」
「ツナグ、ツナグ。──『ねぇちょっと! 僕からの通信は三秒以内に取るのが常識じゃないのっ?』」
「!? ユッユリスゥゥゥッ! 俺が悪かったッ! なんだよなんだよおいィッ!」

 作戦の把握は全て俺に丸投げしていたリューオが、瞬きする間に飛び上がってコウモリに詰め寄る。

 おかげでコウモリはドン引き、俺は和やかなスマイルだ。

 流石、猛獣使いユリス。ラブコール一つでリューオを喜色満面にできるとは……見習いたい。

 俺も単身赴任なアゼルと通話してみたいものだ。お留守番をしているタローにかけるのも楽しいと思う。夢が広がるな。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~

あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。 ※R-18作品です。 モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

初めてなのに中イキの仕方を教え込まれる話

Laxia
BL
恋人との初めてのセックスで、媚薬を使われて中イキを教え混まれる話です。らぶらぶです。今回は1話完結ではなく、何話か連載します! R-18の長編BLも書いてますので、そちらも見て頂けるとめちゃくちゃ嬉しいですしやる気が増し増しになります!!

処理中です...