873 / 901
十五皿目 正論論破愛情論
73
しおりを挟む縛りつけた俺を宙に浮かせると、そのまま大股で前進する。
そして素早くリューオも巻き取り浮かせると、リューオの頭をバコンッと叩いた。なんでだ。
「なぁ、なんで殴られたんですか? ぶち殺していいですか?」
「ふん。勝手なことをする妃も、護衛も、いらねぇ。……そして脳筋勇者のくせにシャルをキラツヤにするなんていい仕事し過ぎだろうが……ッ」
「アァッ? 褒めてンのかキレてンのかどっちだよですねッ? 殺るかッ?」
後半を小声で言ったアゼルに、リューオがギリギリの態度で噛みつく。むむ、なにを言われたんだろう?
わからないがアゼルは素早く乱暴に(見えるように)俺とリューオを捕獲し、魔法で俺達を黒い霧で包んだ。
顔だけを残し黒モズクの塊になってしまったので、傍目に見ても自力脱出はできない。
「アゼリディアス、シャルたちに乱暴するのはやめてあげてくれっ。不法侵入者でもそこまでは……」
「王。大丈夫です。あのような者共、魔物と変わりない蛮族ですよ。郊外にでも捨ておけば良いのです」
「でも……」
「魔王! 大切な人を一人で泣かせないと言った言葉、忘れていませんね? 魔界の王として、その不法侵入者に相応しい対応をしてください」
「ハッ、誰に言ってやがるッ」
リューオから離れアマダの傍らに戻ったセファーが愛する王の肩を抱きながら釘を刺すと、アゼルは吐き捨てるように振り返った。
ビクッ、と二人の肩が一瞬跳ねる。
アゼルの常時威圧スキルは、なくせなくとも感情で威力を増減させられるのだ。
監視がついているのでこのまま一緒に帰ることはできないのに念を押され、煩わしくなったのだろう。
そしてアゼルの妃と友人を貶されて、気が立ったのだ。
心を開くまで時間がかかるが、一度懐に入れると大切にするのはアゼルの美点。けれど今はいけない。
「ん」
「っ」
俺はどうにかアゼルを落ち着かせるために、咄嗟に口元を押さえる蔦を、ペロリと舐めた。
うん。あんまり味がしないが、強いて言うなら血の味がする。
「……フンッ」
「んむ」
コクリと頷くと、横目でチラリとしか見ていないのにバツが悪そうに閉口し、再度切り替えた。
よしよし。それでこそかっこいい魔王様だ。俺の旦那さんで、素敵なアゼルだ。
「俺は魔王、魔界の王だ。全ての魔界の民を罰する権利を持つ。王としての仕事から、俺は逃げないからな」
仕切り直したアゼルは冷淡に告げると、「闇、蛇牢」と唱える。
途端に俺とリューオは鉄格子でできた巨大な蛇の牢に閉じ込められた。
「地下牢へ連れて行け」
魔法に行き先を告げたアゼルは、もう振り返らずにアマダのいるほうへ歩いていく。
蛇行して進む牢の中で、その背中を見つめ、名残惜しく恋しい気持ちになった。
アゼルと離れる時は、いつだって胸が痛い。ずっと一緒にいたい。演技でも、アマダに寄り添うのは少し寂しくなった。
けれどアゼルは髪をかきあげるフリをして、俺に向かって合図を送る。
鳥かごの中のタローは、バイバイと手を振っている。俺がまた戻ってくると、信じてやまない無垢な瞳だ。
うん。そうだな。
家族はいつでも、離れていても家族だ。
どこでセファーの監視がいるかわからないので、捕縛された俺は声を出したり動いたりができないが、口元に笑みを浮かべた。
30
お気に入りに追加
2,680
あなたにおすすめの小説
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる