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十五皿目 正論論破愛情論
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しおりを挟む人様に容姿をどう思われようが気にしないが、アゼルの評価は気になる。
ガタゴトと揺られながら渋い顔をする俺に、リューオが「そう言えばよォ」と声をかけた。
「ガルの個人能力で会場に空間を繋いで、そのまま馬車で乗り込むのはいいけど、お前演技なんてできンのか?」
「ん? あぁ、大丈夫だ。嘘は良心の呵責があるので苦手だが、演技として割り切って誤魔化すのはなんとかなると思う」
「ほんとかァ? 俺様何様お妃様で高慢ちきにやらなきゃなんだぜッ? 精霊王には一度会ってるから、あんま不自然なカンジだとヤベェしよ」
「んん……見本があるからたぶん大丈夫。なんとかやるぞ」
親指を立ててみたが納得していないリューオを置いて、馬車の外の景色が変わる。
ガルが作ったゲートを無事通ったみたいだ。窓の外は儀式の場である神殿の前になっていた。
豪華な食事の並んだテーブルがいくつもあり、着飾った精霊族が楽しげに歓談している。
視線を走らせると、中央につくられた櫓の中に、鳥かごに入れられたタローが見えた。
心臓がドクッ、と高鳴る。
けれどよく見るとタローは泣くことも絶望もせず、なにやら素手の両手をパタパタ動かし、ひとり遊びをしているようだ。
うん、アゼルのフォローが効いているのかもしれないな。
お父さんはちょっぴり殴り込みたくなったが、タローが我慢しているんだから、もちろん我慢するとも。
スーハーと深呼吸をする。
精霊族が突然現れた馬車に気がつき始めるのを後目に、俺はんんっ、と喉を鳴らした。
「まぁ、行ってみようか。リューオこそクールで厳格な騎士様、楽しみにしているからな」
「ケッ、俺にやれねェことがあるかよ。それよりテメェは祭事具を壊して、存分に場を掻き乱せってンだ」
「わかった。じゃあ、行くぞ?」
頷きあった後、俺は立ち上がって扉に──ドガンッ! と思いっきり蹴りを入れる。
背後からリューオの「え」という声が聞こえたが、こういう演出だから許してくれ。壊れたらガルに弁償しよう。
トン、と地面に降りたって周囲を見回すと、静まり返ったパーティー会場の人々から、痛いくらいの視線が突き刺さった。
「はぁ……不躾に見てんじゃねぇよ、礼儀知らず甚だしい連中だな」
ため息混じりに呟いて、前髪をかきあげる。前髪を上げるのはあまりないから新鮮だな。
そのままゆっくりと歩きながら背筋を伸ばし、手近なテーブルの上からシャンパングラスを一つ取った。
「……っ、は、誰だ……っ!?」
「リューオ」
俺の後ろから着いてきていたリューオが、我に返って俺に剣を向けるウィンディーノの兵士の剣を、素早くはじき飛ばす。
カラン、とレンガの広場の上に落ちる剣は、真っ二つだ。
そっとシャンパングラスに口をつけて、中身を飲む。
(むむ、美味しい。……あいや、じゃなくて、だ)
こちらを見て目を丸くしてニッコリと笑い手を振っているタローを横目で見て、シー、と唇に指を添えた。
それから静まり返ったパーティー会場の真ん中へ行き、テーブルの上に腰を下ろす。
顎を上げて周囲を見下しつつ、スッ、と目を細め、ニヤリと笑った。
「誰? 俺は魔王の妃、シャル。一ヶ月も郊外に放置されてたんだ、パーティーぐらい楽しませろよ。砲撃」
手のひらに魔法陣を貼り付けてそれを祭事具が置いてあるほうへ向け、発動させる。
短い悲鳴がそこかしこから上がると共に、ドォンッ! と爆破音が響いた。
「……気ままに消されたくはねぇだろ?」
喉奥で笑って妖艶に囁くこの演技。
言うまでもなく、お手本は──魔王様だったりするのだ。
ちなみに、アゼルは素面でやるぞ。
悪気もなにもない。
余談だが隣に控えていたリューオには、後で「魔王のモノマネ芸人になれんじゃね?」と言われたことをお知らせしておこう。
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