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十五皿目 正論論破愛情論

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 ガルの名乗りを受けてから、俺たちは素早く動いた。

「音遮断」
「聖域」

 俺が魔法陣を作って三人を覆うと、リューオが聖剣を取り出して剣の能力を使い、害意を持った者が部屋に近づくと察知できるように聖域を作る。

 窓に布を張ったりはしない。

 ガルが誰かにつけられていたり、監視されている可能性を考え、一見して普通でなければならなかった。

 水面下での戦いにおいて、警戒は、警戒していることを悟られてはいけないのだ。

 コーヒーにミルクを入れる際のミルクポットをカップの代わりに見立てて、コポポ、とコーヒーを注ぎ、ガルの前に置く。

 話し合いの場が整い、改めて三人が向き合う。ガルは見た目はいつもと変わらない愛らしい小動物だが、空気は違った。

「それじゃあ早速だが、本題に入るぜ」
「待てよ。テメェがちゃんと魔王の協力者だって証拠を見せろや。俺はなり代わりの可能性を捨ててねェ」

 聖剣の柄を掴んだまま、リューオはギロリとガルを睨む。

 アマダの時とは違い異論がない俺は、それを咎めることはしなかった。

 彼は俺の護衛だ。
 恋人であるユリスに頼みを託され、対等の友人として俺を任せたアゼルに報いるため。

 誰よりも義理堅い勇者は、俺を守るために仲間以外を全て疑う。

 その報いとして俺たち仲間がリューオに返せるものは、信頼だけだ。

「嫁さんは裏切られる覚悟で信じてくれたのに……勇者。お前、ずっと俺を疑ってただろ。めんどくせぇな?」
「ハッ! 言葉は確証じゃねェンだ。裏はねェって言うテメェの言葉を証明するもんはなかったんだから、当たり前だろッ? 騙されちまッたから、俺が言葉だけで信じるのは仲間だけって、決めてんだっての」
「……ふっ、うははははっ!」
「なに笑ってんだコノヤロウ。ファーコートにされてぇのかオラ」

 唸り声をあげそうな喰らい目を吊り上げて睨むリューオに、ニカッ! と人懐こい笑顔を返したガル。

 兄だと言っていたが、その親しみやすそうな笑い方がアマダに似てるな。

 なんてのんきなことを考えながら、口を挟まずに二人を見守る。

 ややあって、ガルは毛皮の中からなにかを取り出した。

 どうやってしまっていたのかは触れないでおいて、ガルの手を覗きこむ。

「ピアスゥ?」

 そこにあったのは薄い楕円形のゴールドが二つ根元で繋がった、ピアスだった。片方だけだが、これにはとても見覚えがある。

「アゼルのピアスだ。風呂場でよく見るから、間違いない。アゼルが魔王になった時にそれらしい服装を、ということで誂えたもので、常日頃身につけているから魔力の匂いが染み付いていると思う。俺はわからないが」
「いや匂いとかわかるか。魔族じゃねぇかんな。でもシャルがそういうってんなら、これはマジにアイツのか。おめおめ奪われるわけもねェし……こりゃ証拠にピッタリだわ」

 二人して頭を突き合わせて納得する。

 アゼルしか持っていないものを持ってこれるのは、協力者だけだ。

 そうするとガルが「うははっ」とまた独特の笑い声を上げるものだから、リューオはドスのきいた声でたしなめた。

 けれどガルはニンマリと笑う。
 愉快そうにリューオと俺を見て、その愛らしい見た目で腕を組んだ。

「いや? なんつうか、な。魔王が言ってたぜ。『リューオは絶対疑うから証拠を持っていけ。シャルなら本物か絶対わかるし、シャルがそう言ったらリューオは信じるからな』ってな」
「…………」
「…………」

 バツが悪いような、わかってもらっていてくすぐったいような、不思議な表情でお互い顔を見合わせる。

 俺は黙って元々耳についていたプレゼントのピアスを外し、受け取ったアゼルのピアスを着けた。

 リューオは聖剣をしまい、ふてぶてしくテーブルに肘をつく。

「嫁さんはやめてくれ、シャルでいい。ガル」
「勇者はやめろ。リューオで通ってんだ。ガル」
「うはは。オーケー。じゃあ、俺は嘘偽りなく、今起こっていることの全部を話すぜ。シャル、リューオ」



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